01-09 はい、男、死んだー。
「止めろ!! 止めてくれ、俺はまだ死にたくない!! まだ若いし、やりたい事がたくさんあるんだ!!」
ホテルの前庭には死刑執行の準備が整えられていた。ルクレツィアたちが乗ってきたのとは別の、もう一台の自動車に載せられていた断頭台が準備されていた。
断頭台というとギロチンを指す事もあるけど、ジョバンニに下された判決はあくまで剣による斬首刑。今回の断頭台は首を刎ねられる罪人を動けないよう、固定しておくだけのものだ。
長いトランクケースが開けられ、そこに入っていた一振りの剣が姿を見せる。それは普通の剣とはちょっと違う。まず切っ先がない。中華包丁のように先が平らだ。そして鍔がほとんどない。そして刀身にはこの世界の神聖文字が彫られている。
これは斬り合いをする為の剣では無い。罪人の首を刎ねる為だけの剣。
いわゆる
二台目の自動車に乗っていた司法省の職員が、手続きに従い剣を準備、それを審問官のリンダが確認すると、剣はルクレツィアに恭しく差し出された。
ルクレツィアも差し出された剣を丁重に受け取った。司法省の職員は、剣を持ったルクレツィアにエプロンのような衣装を着せた。これは返り血を防ぐ為のもの。やはり同じ目的の仮面も手渡した。
「貴方の信じる神に祈ってください。神は必ず貴方を許してくださいます」
教会の保護観察下に置かれている見習いシスターのマルチナだが、それでも一応はこの場に居るただ一人の教誨師。ジョバンニの最期を看取る義務がある。
しかしジョバンニの方は聞く耳を持たない。
「うるせえ! 神と言うなら、今すぐ俺を救ってくれる神を連れてこい!!」
屈強な処刑人助手たちに断頭台に乗せられたジョバンニの指紋と掌紋を照合して本人確認を行うのは執事のパトリックの仕事。
この小柄な老人。執事と言っても、ただの執事では無い。
本職は司法省の役人であり、その職務の一環としてモーントシャイン家の執事をやっているのだ。
「指紋、掌紋を確認いたしました。死刑囚ジョバンニ・クリストファー・コーザー本人に間違いありません」
パトリックのその言葉に、ルクレツィアはうなづき、処刑人の剣を手に、ゆっくりとジョバンニに歩み寄った。
「ま、待て! ちょっと待ってくれ、話し合おうルクレツィアお嬢さん! 俺を殺したら、お前も人殺しになる! 一生後悔するぞ!!」
ジョバンニは見苦しくわめき立てる。そんなジョバンニのすぐ前に跪いてマルチナは問うた。
「言い残す事はありませんか? ご家族には責任を持って伝えます」
「俺は死にたくない! 俺を殺したところで、死んだ女達が帰ってくるのかよ! お前はただの人殺しだ!!」
ルクレツィアに代わりパトリックが答えた。
「ジョバンニ・コーザー。あなた様の命を奪うのはこの国の法律と正義でございます。確かにあなた様を死に追いやっても被害者は帰ってきません。しかし被害者のご遺族はこれで明日に向き合う事が出来るのです。これは我が国にとっても望ましい事でございます」
「嫌だ! 助けてくれ!! 助けて!!」
ジョバンニは叫んだが、パトリックは意に介さず処刑人助手に猿ぐつわを填めるよう指示した。
処刑される死刑囚には目隠しをする場合もあるようだけど、この国にはそう言う習慣は無い。猿ぐつわを填められたジョバンニは、傍らに立つルクレツィアを恐怖の目で見ていた。
そんなジョバンニにルクレツィアは言った。
「御首、刎ねさせていただきます。お覚悟はよろしくて?」
まぁね、よろしくても何も無い。よろしくなくてもルクレツィアはやるしかない。なにしろ彼女も処刑人を引き受ける見返りに死刑執行を猶予してもらっている身の上だ。
情が移って死刑囚を見逃したり、死刑執行を失敗するような事があれば、明日にでもルクレツィアとマルチナの方が、断頭台に登る羽目になるかも知れない。
ルクレツィアは返り血避けの仮面をかぶると、処刑人の剣を高く振りかざした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます