02-05 百合ストーカーか変態淑女か
ルクレツィアお嬢さま、何を隠そう満足に学校に通った事がない。
別に引きこもりとか登校拒否ではなく、この世界の地方貴族は学校に通うという習慣がないのだ。そもそも貴族と平民が学校で机を並べるのを良しとしない風潮がある。
貴族の数が多い大都市圏ならばいざしらず、ほぼ領主の貴族しかいない田舎に、貴族専門の学校を作るのはさすがに無理がある。
田舎、もとい地方貴族の子女は家庭教師を雇い自宅で勉強する事になる。ある程度の年齢で国家試験を受けて、規定の学力がある事を認定してもらう。あたしたちの世界で言う高校卒業程度認定試験みたいなものだわね。
大学以上はさすがに自宅学習というわけにもいかないので、学校に通う事になるけど、ルクレツィアの場合、大学進学前にマルチナとの関係が発覚してしまったので、結局、まともに通学した事がないまま巡回処刑人になってしまったのだ。
そんなわけでルクレツィアお嬢さまとしては、今回のペンフィールド学園潜入捜査が、初の学校体験という事になる。
◆ ◆ ◆
……皆さんの視線が痛いですわ。
貴族クラスの廊下を歩きながら、ルクレツィアお嬢さまは皆の視線を気にしている。
まぁお嬢さまに寄生……、じゃない憑依しているあたし、
廊下の隅で生徒が数人固まっている話している、そしてルクレツィアが近づくと、愛想笑いを浮かべて散ってしまうのも、気になって仕方ないみたいだ。
やはり先ほど、花梨さんに言い返した事が傲慢と見られたのでしょうか。
そんな事をうじうじと気に病んでいる。
でも花梨さんも花梨さんですわ。いきなりマルチナの名前を出されたら、わたくしも動揺してしまう事くらい分かっているでしょうに……。
ふうと足を止め、柱に手を突きルクレツィアお嬢さま。アンニュイにため息をつく。その姿に下級生が、熱い視線を送っているけど、マルチナの事で頭が一杯のルクレツィアは気づかない。
マルチナ、あぁマルチナ。一目で良いから会いたい。顔を見るだけでも構いませんわ。あの笑顔を……。
ルクレツィアお嬢さま、すっかり浸っていらっしゃいますが、平民が貴族クラスへ出入りする事は出来ませんが、貴族さまが平民クラスに顔を出す事は出来ますのよ?
入学の時、そう説明されませんでしたか?
は、そうですわ! 貴族は平民クラスの校舎に出入りする事が出来るはずですわ!!
ルクレツィアもようやくその事に気づいたみたいだ。善(?)は急げ、否、百合は急げとばかりに平民クラス校舎へと向かった。
◆ ◆ ◆
何となく陰気で重苦しい空気が支配している貴族クラス校舎と比べて、平民クラスの校舎は和気藹々だ。女子生徒たちもあちらこちらでキャッキャウフフしている。
生徒の数も平民クラスが多いはずで、単純に人数の問題なのかも知れない。
マルチナ、マルチナはどこ?
貴族クラスと平民クラスは制服も違う。貴族は大人っぽい黒のシックな制服に対して、平民クラスは明るい緑の可愛らしいデザイン。
当然、貴族クラスの生徒が平民クラスへ来れば目立つ事この上ない。
ルクレツィアお嬢さま。柱の陰に隠れてマルチナの姿を探していらっしゃいますが、完全に百合ストーカーでございますわよ。
隠れているつもりでも目立ちまくり。平民クラスの生徒たちから白い目で見られてますわよ、お嬢さま!
いやいや、これでは百合ストーカーどころか、単に女子学生を見てハァハァしてる変態ですわーッ!
すっかり変態淑女一歩手前のルクレツィアさまだけど、ようやくお目当てのマルチナの姿を発見した。
マルチナ! あぁ、マルチナ!! なんて愛らしい!! 抱きしめたい!!
うん、ルクレツィアお嬢さまがテンション上げ上げなのも分かる。クラスメートと一緒に渡り廊下を歩いてくるマルチナは超可愛い。少し短めスカートの緑の制服もよく似合っている。
マルチナは何人もの女子生徒に囲まれ、談笑しながらこちらへ来る。貴族クラスは平民クラスよりも閉鎖的とはいえ、未だにクラスメートとろくに会話もした事がないルクレツィアとは大違いだ。
それもそのはず。マルチナは普通に学校へ通っていた。成績も良く村の有力者の支援で都会の高校へ進学する予定が、その有力者の息子から関係を迫られて拒絶。ついでに張り倒してしまった為、進学の話はおじゃんに。村にも居づらくなり、ルクレツィアのメイドとなった訳だ。
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