05 保昌山(ほうしょうやま)

 その夜、和泉式部いずみしきぶの家におとないがあった。

 彼女は紫宸殿のことが気になって起きていたので、すぐに門を開けた。

 開けた先に、馥郁ふくいくたる香りが。


「梅……」


 そこには、平井保昌ひらいやすまさが梅の枝をささげ持っていた。


「い、和泉式部どの」


 今こそ。

 告げねば。

 この、恋よりも恋に近しい想いを。

 その、想いの名を。



 藤原道長ふじわらのみちなが源頼信みなもとのよりのぶに送られ、法成寺ほうじょうじに戻った。

 戻ると、赤染衛門あかぞめえもん白湯さゆを出してくれた。


「すまんの」


「して、首尾は?」


「上々や」


 白湯をすすった道長は、ふと赤染衛門に聞いた。


「そういえば」


「何ですか」


「保昌の『恋よりも恋に近しい気持ち』て、ホンマは何ていうんかのう?」


「そんなの、決まってるじゃないですか」


 赤染衛門が「愛ですよ」と答えると、道長は「せやな」と膝を打ち、そして二人は大いに笑った。



 さて。

 平井保昌と和泉式部はその後どうなったのか。

 今日のわれわれは、それを京都の祇園祭で知ることができる。

 山鉾やまほこ(いわゆる『山車だし』)「保昌山ほうしょうやま」、別名「花盗人山」。

 それは、保昌が和泉式部に梅の枝を献じる姿をご神体としている。


 そして、この保昌の故事にちなんで――祇園祭の宵山よいやま(前夜祭)に、「」のお守りを授与するという。


【了】

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恋よりも恋に近しい ~京都祇園祭「保昌山(ほうしょうやま)」より~ 四谷軒 @gyro

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