皇姫は食医となる。幻想的な毒と食の中華ファンタジー。ミステリ要素強め

ラノベの女性向けファンタジー界隈では、常に一定の人気を誇る中華もの(特に後宮もの)ですが、私は中国の文化や歴史に疎く、難しそうだからとあまり手にすることがありませんでした。これまでに通ったのは、超有名作の『十二国記』『後宮小説』くらい。
そんなふうに中華ファンタジーをほとんど読んでこなかった自分にもスラスラと読めて、さらにはお話に夢中にならせてくれる物語です。
元々そちらの文化が大好きな方には、ぜひぜひ読んで欲しいと思わずにはいられません。
美しい後宮の風景、食欲をそそる食事の描写、いつの間にか感情移入してしまっている魅力的な登場人物たち……。きっと多くの方にとって、このお話は宝物のような存在になるでしょう

主人公の少女・慧玲ちゃんは聡明で気高くて、純朴で、ちょっと毒舌。凛とした美少女ながらも庶民的な面もあり、「薬」たる白澤の娘として患者の毒を和らげることに一途に努めています。心を寄せて応援したくなるような子です。
彼女は皇姫という身分でしたが、父帝の罪科により身分をはく奪され、死罪をまぬがれるかわりに「後宮食医」という職に任命されます。

この慧玲ちゃんが後宮で事件を解決していく様子が、もうとてもおもしろいのです!
奇妙で幻想的な「病」は「毒」によってつくられる。食医として慧玲は、陰陽五行思想の知識に基づいた材料を用いて「薬」になる食事を調合して、患者の症状を和らげていきます。
この料理が、薬とは思えないくらいに美味しそうなのです。思わず食べたくなるような、五感に訴える描写が見事です!
そして「病」といってもただ悲惨なものではありません。美しくてどこか幻想的ともいえるものが多く心に残ります。

その中で少しずつ明かされていく、彼女の両親のこと、彼女自身のこと、現帝の後宮の事情……。読み進めていくうちに気になっていた謎が明らかになっていくのが、とても見事で楽しい。
まだ連載はつづいていますが、毒にまつわる事件を解決していくうちに、慧玲自身やこの後宮に潜む謎もさらに見えてくるのだろう、魅力的な人物との出会いも増えていくのだろうと期待しています。

このレビューを書いている時点ではまだほんの序盤ですが、きっと名作になると確信しています。
小説としての完成度はもちろん、独特の美しく幻想的な雰囲気が漂っており、大勢の方の心をとらえるのに十分な作品だと思います。ぜひぜひぜひ、少しでも気になった方には読んで欲しいです!!


(第三章読了時での追記)
やはりすごく面白いです!
病の裏には毒がある。毒を生じさせるのは人の心の恨みや憎しみ……。毒の正体をつきとめるため、その患者の背景を慧玲ちゃんが探っていく様は、ミステリタッチで強く興味をひかれます。

そして、謎めいた風水師(実は毒師)の美青年・鴆(ヂェン)
飄々としていて心のうちが読めず、常に冷たい微笑みを浮かべているかのような印象の彼ですが、慧玲ちゃんのことが少しずつ気になっている模様で……。
恋など全く眼中にない慧玲ちゃんとの関係が、今後どうなっていくのか、非常に興味をそそられます。
恋愛要素は多くはありませんが、それだけに、ささやかなふたりの交流にドキドキしてしまいます。甘くはない、ひりつく危険な毒のような。言葉で形容し難い、ふたりだけの独特な関係性は必見です。すごく良いです……!

物語としての完成度が高いだけでなく、使われている語は基本的に中国文化に疎くともついていけるようなものばかりです。さらに難解な用語にも必ずルビがふってあるなど読みやすさへの配慮が嬉しいです。
慧玲(フェイリン)、鴆(ヂェン)など、どんなに頻出する語でも、ページごとに読み仮名がふってあるため「なんだっけ?」ということがありません。

幅広い層の読者を獲得できる力のある作品だと確信しています。
ぜひ大勢の方にお手に取って欲しい物語です……!!

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