7. 蟲喰い ~🐜4匹
二人とも起きる気配はない。
「早く光の粒を飲め。丈たちにも早く付けるぞ」
迷路の土の下に隠し埋めていた僅かな光を飲み込み、寧夢と丈のからだにも擦り付けた。
本来は日の差すうちに地表の翅に全て受け渡さなければならない光の粒。
今夜、阿夢と宇丈は働き者の幻影虫にあるまじき卑怯を計画した。
夜闇の静寂を破り、迷路の巣を凄まじい速さで駆け抜けていく、舌。
円形のトンネルを全て塞ぐ太さのそれが、光だけを避けて通路を舐め回し、また上へと帰っていった。
アリクイならぬ
蟲喰いは必ず毎夜一度だけ舌を伸ばし、幻影虫をぴったり十匹ずつ食べる。
地表からポリポット世界の深部まで長い舌を伸ばし、幻影虫を巻き取って食する。
ポリポット世界の天敵らは大抵光の粒を目印に幻影虫を襲う。
しかし蟲喰いだけは光を嫌うのだ。
それを検証し証明してみせたのは宇丈だった。
既に何匹もの仲間の犠牲を傍観し、その観察に基づいて分かったのだ。
夜、光を
阿夢たちはその情報を隠し、自分たちだけ助かろうとしている。代わりの幻影虫が必ず犠牲になると知りながら。
ポリポット世界の幻影虫たちには一匹一匹に人間の魂が宿っている。
だからこれはある意味、人を見殺しにする行いだ。
それでも、そうしなければ自分たちが死ぬ。
「阿夢、これで蟲喰いは避けられる。だが代わりに、他の天敵が光の粒に寄って来る。その対策をせねば」
シオヤアブならぬ蟲喰い
まだ気付いていないようだが、いずれはここにも来るだろう。
宇丈は美しくエメラルドに輝く貝殻の欠片のような物を寧夢たちから離れた所に置いた。
「……これは地上の翅の欠片だ。これに蜜をかけて蝱の注意を惹きつけて、殺ろう」
――それはあまりに幻影虫の”仕事”とかけ離れた所業だった。
翅を千切り取るなど褒められた事ではない。
本来、翅を美しく装飾する事が自分たちの存在意義なのに。
それに、
「蜜って、何……?」
阿夢のその問いには沈黙しか返ってこなかった。
その夜から宇丈と阿夢は共犯者となった。
自分ときょうだいたちを生き延びさせる。
そのためにできる事は惜しまず行った。
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