5. 翅 ~🦋3頭
夜闇でぼお、と光るのはポリポット世界に咲く蝶の翅。
子供たちの運んだ光の粒のおかげで、翅はより美しく変化していた。
青紫色から、目の覚める緑に複雑な色味が混じり合った黄金虫の翅色へ。
地中では一仕事を終えた幻影虫たちが談笑している。
五百旗頭が少し話をした少年――
彼らを見ていてふと、人間だった頃の感覚をなぞる己に気付いた。
五百旗頭はいつも読書する時、とりわけ素晴らしい本を読む時、舌下から喉仏の下半分あたりに透明の感情が折り重なっていく感覚がしていた。
語り手の声が自分の喉から聞こえる。
集中していると自分の頬の張りが失われ、重力に引かれるままになり口が半開きになる。
格好悪いので絶対人前で読書はできない。小四の時めっちゃ笑われた実体験だってある。
時間の流れが急に濃厚になり、自分が自分の力で呼吸する生き物である事をしばしば忘れる。
登場人物に、本の中の風景に、疾走感に同化しながら、俯瞰する。
目の奥にシーンの一コマやキャラクターの鼓動が描き出されるのと同時に、頭の中の別の場所で色が見える。
共感覚と言うらしいが白い紙と黒い印刷文字に、ごく自然に赤や青やクリーム色が差し挟まれる。
そして文章中の思想や思考が舌に滑り込み、自分の頭まで浸透することを全面的に受容できる。
その感覚が今、起きている。
五百旗頭は、幻影虫たちに感情移入している。
そう。
彼らに同化しながら、俯瞰する状態が五百旗頭の常になっている。
蝶の翅が光の粒を吸収するほど、五百旗頭の人間としての自己が曖昧になる事を、この日悟った。
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