4. 仕事 ~🐜2匹
ここは、ポリポット世界の地中だ。
彼女もまた幻影虫となっていた。薄ピンクに真珠光りするからだ。
地中迷路の壁際に、姉がからだを折り曲げて俯いていた。
勿論、姉も幻影虫である。彼女のほうはゴールドに照り光る昆虫の体表。
蟻と近い姿だが、寧夢には本来ある翅が根元で千切れた蜂に思えた。
頭の中に”仕事”の手順が浮かんできた。
地下から光の粒を運び、ポリポットの上にあたかも花のように生える翅に供給するのだ。
だが、幻影虫としての使命と同時に、人間としての意識が残っている。
生きたい。生き延びたい。人間に戻りたい。
そんな人間としての絶望を感じながら、命を終えようとしているポリポット世界で、寧夢はいつかの港で会った男の子と再会した。
「
互いに姿が変わっても、目を見た瞬間、相手だと判った。
不思議さを感じないくらい不思議な事に、懐かしさと安堵を覚えた。
こつんと頭をぶつけ合った。まるで意思を伝達するように。
丈の純黒色が一筋だけ寧夢に映り込み、また寧夢のパールピンクが丈の頭部の輪郭際に反射した。
寧夢は丈たちと共に”仕事”をする事になった。
どうやら姉たちも人間だった頃から顔見知りだったらしい。
港で出会った時殊更よそよそしかったのはそのためだと判明した。
かつて寒天草という女性を奪い合った経緯があるとか。奪い合った……?
まあ、それはともかく。
”仕事”は、チームを組んでバケツリレー形式で運ぶほうが効率が良い。
地下から光の粒を見つけるのはただではない。
まず太陽光が地下まで差し込む時を狙って、土の中にからだを押し込める。
太陽光に背を焼く。かなり痛い。まさに身を斬る痛み。
じっと焼かれていると、蜂ならば翅が生えているであろう箇所に粒は集まる。
地下迷路を上へと昇り、背負った光の粒を地表まで運ぶ。
地表に生えている虹色の翅に光をこすりつける。
光を全て翅に受け渡したら、また地下に光を採りに行く。
天敵は数多存在する。
アリクイならぬ
光を運んでいる最中の幻影虫は、地中で目立つ。
天敵らの機嫌を損ねぬようそっと目を盗んで光集めをしなければならない。
丈にはこの光集めの才能があった。
寧夢はそんな丈の足を引っ張るまいと、丈だけに負担を掛けまいと、懸命に働いた。
初めての”仕事”を終え、日が沈んでから姉に揶揄われた。
この時には姉も、人間でなくなった絶望を乗り越え、元気を取り戻しつつあった。
「まったく寧夢。あなたって子は。いっつもおっとりしてるくせに丈君の前でだけ張り切ってらして」
「お姉様! 違うもん。わ、わたしいつもしっかりしてるもん」
「あらそう? つい数か月前は間違えて、卒業した中学校に登校してしまって電話をかけてきたのではなくて。
ついでに言うと、そこから高校に向かう駅で駅員さんの定期券の案内を至極のんびり聞いて遅刻しましたよね」
「あわわわ! ここでそれをおっしゃらないで!」
丈が吹き出してから、ちょっと寧夢に申し訳ないように照れ笑いをした。
寡黙な丈の兄も、背後でくすくす笑いを堪えた。
丈の笑顔を見る度に寧夢の心の底が、生きたい、人間に戻りたいと叫び出して軋んだ。
人間として丈と対面して、きっとそう、彼に恋を、してみたい。
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