ポリポット世界

1. ポリポット世界 ~🦋1頭

 眩い朝日に佇む育苗いくびょう用ポリポットに、芽が生えるように宝石の輝きを放つ虫の翅が芽吹いた。


 色は金属光沢ある青紫――蝶蜻蛉チョウトンボの四枚翅に酷似し、形状はチョウに限りなく近い。


 このポリポットそのものが社会であり、一個体に収束する虫だ。

 仮に、この世界をポリポット世界、宝石色の虫を幻影虫げんえいちゅうと呼ぼう。


 ポリポット世界は、現実世界で例えるならハチアリの巣と近しい社会だ。


 地表に一対咲く宝石のような蝶の翅がいわゆる女王蜂。

 地中には蟻の巣のような迷路が広がり、一抱えの幻影虫たちが動き回る。 


 幻影虫は蟻と似た昆虫。茄子ナスの柔肌のようにぷくりと膨れた腹部。六本の細い節足を細かに操作し進む。


 人間の魂を閉じ込めた虫である。


 彼らは現世の蟻とよく似た外見だが、外で餌を探す働き蟻は存在しない。性別もない。


 彼らが働くのは、地上の翅をより美しく着飾る光の粒を見つけるためだ。


 命を繋ぐ働きを持たない彼らには、それでも寿命があり、天敵がいる。


 幻影虫はひっそりと絶滅しかかっていた。






 朝日が照らす。幻影虫の翅が透け、硬く艶めく。


 このポリポット世界に最初に召喚されたのは五百旗頭いおりべだった。


 彼は物言う煌びやかな蝶の翅として、第二の人生を始めた。





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