15. 世間場慣れ ~🌈1筋
九日目、
命を終え、原形を失くした寧夢のからだにしがみついていた。
彼女から滲み出た金色にパールピンクの光沢が見えた気がした。
今ならまだ彼女を連れていける幻想が沸き起こって、丈は懸命に前腕でかき集めたその金色を
寝床にしていた通路の出口に、蟲地獄の死骸があった。
その側の液化した黄金も一滴だけ吸った。
丈はポリポット世界で誰より光集めが得意だった。
丈はポリポット世界に来て一日目に話した翅との会話を思い出していた。
彼――
「君が人間に希望を抱く気になったら、昇っておいで」
会話を無意識に
蝶には翅が生えているものだ。蜂にも翅が生えているものだ。
翅とからだが離れているのは、変だ。
丈はトンネルを掘り進めるように近道をして、地表に潜り出た。
朝日がじんわり一枚の翅を温めていた。丈は翅を引き抜いた。
翅は安堵の息を漏らした。
「ああ、私たちは完成するのだね……」
丈は背負った。
翅を本来の場所に装着した。
真綿を押し付けたような感触で――。
人間に戻った。
駅のホームの雑踏の中に立っていた。福岡県の小倉駅。
裸だった。
よくよく見れば判る程度に、肌に継ぎ目があった。透けた金糸で縫われていた。
これは日に焼けたよく外で働く青年の肌。
これは地中海の潮風を浴びた白砂の女性の肌。
これは温室でぬくぬく守られた可憐な少女の肌。
これは若々しく健康的な乙女の肌。
不摂生一歩手前のアラサーの肌。
そして、所々に傷跡の目立つ、けれど瑞々しさを秘めた少年の肌。
駅の人々の不審げなざわめきと、駅員の怒号が聞こえた。
景色に焦点が合う。
はらはら舞い落ちる若葉が太陽光を反射し、翻って、目を刺した。
丈は、光だ、と思った。
目の、虹色の光彩が光に揺らぐ。
「あ……」
虹色の声が出た。
多幸感が包んだ。
いろんな不遇と幸運の記憶が、ゼリーの弾力を持って甘やかな蜜となり、頭にトゥルンと滑り込んだ。
脳みその思考が蜜に置き換わる。
ポリポットの世界のみんなと融合したことを思い出した。
みんながいる一体感と、独りぼっちの孤独感が同時に襲った。
自由だった。
駅。列車の走行で生み出された緑風が素肌を旋回し、丈のからだを持ち上げた。
カラフルで純白なオーロラの光が素肌を滑り、蝶の翅のような揺らめきをもって周囲を包んだ。
***
――結局、取材旅行の甲斐のない、いつもと代わり映えのない語調の、摩訶不思議話に落ち着いてしまった。
そうぼやきつつ、五百旗頭は書き上げたばかりの原稿を寒天草編集者に送信した。
<終>
ポリポット世界 葛 @kazura1441
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