読者に女性キャラの胸のサイズどう自然に伝える会議
ふむ。
諸君、ご苦労。定刻通りだな。
ではこれより
〝読者に女性キャラの胸のサイズどう自然に伝える会議〟
をはじめる。
これは委員会から直々のお達しだ。心して臨んで欲しい。……では、早川君、資料を出してくれ。うん。えっ?
うそ。なんで出来てないの。アレ文字起こしするだけじゃん。あのご隠居の映像さ。
で、パワポかなんかに書くだけじゃん。俺言わなかったっけな。
言ってない?
いや絶対言ったって。
ま……いいか。元の映像、まんま流しちゃおうか。いいよいいよ。しょうがないんだから。えーでは諸君、清聴するように。
えっ、二十分もあんの。うーん、ええとさ早川君。ごめん、再生速度を最大にしてもらっていいかな。
どう、4倍とかいける?
お、この速さで流して。
いいよいいよ、あの人ハナシ長いんだよな。同じ事何回も言うし。
いいっていいって。内容が分かればいいんだよ。
ふ、ふふ。えほっえほっ。ふふ。
いやいや俺は笑ってないって。笑ったの君だろ。4倍速でアゴの脂肪あんなタプタプしたら笑うよ。
でも最初に笑ったの君だろ。
俺?
俺はちょっと咳き込んだだけ。でも君の気持ちも分かるからチクらないよ。ふふ。いやちょっと待て。笑うな諸君。落ち着け。
早川君。映像を止めたまえ。めっちゃ笑い伝染してる。みんな下向いて震えてる。落ち着き給え、諸君。ああそうだ、音声だけにしよう。で、いったん小休止しよう。メールとかチェックしていいぞ。トイレも行っていいぞ。
ふう。よーし。そろそろいいかな。オーケー続きを見よう。いや、見ようじゃなくて聞こう。
……うん。理解したかな、諸君。まあ、こういう次第だ。
この事態が分かったか諸君。
上層部は非常に憂慮している。そこで我々が招集された。
心眼の持ち主が異常に増えている。爆発的なほどだ。
そうだ。彼らの小説では女性キャラが登場した途端、具体的なバストサイズが瞬時に紹介されるのだ。一人称ですらな。実に恐ろしい能力だ。
〝神眼〟と一部から
ん? 挙手したキミ。意見を述べたまえ。
うむ、確かに現代の学園モノならな。
たしかに生徒たちは同じ制服を着ている訳だ。それに下着メーカーの規格がほぼ同じであろうとか、いろいろ言い訳できる。その上で主人公がそっち系の星人男性だったら、ある程度は、一見しただけで確度の高い観測結果を出してしまえる。そういうキャラ設定は確かに無茶ではない。
いやいや待て、それを言ってはおしまいだ。
初対面と同時にバストサイズの鑑定を始めるようなヤツでもモテてしまうのが、ラブコメだからな。それはな、需要だ。大事なコトなんだ。なので仕方がない。まあ、とはいえ良い着眼点だ。
他にもあるかな。うん、ではキミ。
女性経験の無い主人公が、心眼を使えるわけがない?
ふむ。理由を聞こう。
『実際にモニョモニョした経験がないから目で測れるわけがない』
ほう。それで。
『そういうビデオばかり見てても女優のプロフィールはカップ誇張されている』
と。なるほど。それで?
言いたいことは以上かね。
退出したまえ!
そんなハナから、複数の女性経験あるラブコメ主人公がワラワラ湧いてたまるものか。誰も喜ばんぞ。はい、退出。帰れ。
……失敬。では本題に戻ろう。
さて、彼らは異世界でも心眼を発揮する。
ん? ふむ、成程。
うん、確かにすごく精密に作られてるビキニアーマーとかなら、サイズわからんでもないかも知れないな。興味深い意見だ。
なんかアレだな、どういう鍛冶屋が作るんだろうな、その場合。採寸しないと厳しくないか。こう、あれなのかね。ヒゲもじゃもじゃのドワーフがメジャー持って、
「はい、背筋伸ばして。もうちょい持ち上げてくれますかね。はい何センチね」
とか言いながらサイズ取って、鋳型つくってるのかな。
イメージ崩れるね。でもフィットしてないと動きにくいし。しかもさ、冒険中は体形変わっちゃダメなわけだろ、ビキニアーマーって。きつくなったりスカスカになったりしたらヤバイじゃん。
やせる分には布でもそこらの葉っぱでも詰めとけばいいのか。
うむ、そうだな。食い物に困る時点で、冒険すでに詰んでるかもしれないな。しかし逆に太ったらどうすんのかな。肩とか背中、食い込むよな。戦えないね。アジャスターとか付いてんのかね。
うんその可能性はあるね。食べすぎちゃったら、剣の素振りとか魔法のムダ撃ちとか、がんばってするんだろうね。そうやって汗かいてカロリー管理するんだろうね。ほんと大変だ。
しかし、心眼持ちの奴らは、たとえプレートメイルの上からでもバストサイズを看破するぞ。これは脅威だ。戦場で女性であることを自ら喧伝するメリットはハナからない。ギリギリ理屈として成り立つのは……えっ何?
ああ、挙手しているそこのキミ。どうぞ。
男だけが戦うのは時代錯誤?
それはそうだけど、いわゆる幻想中近世とかの、ざっくりイメージのハナシだから。今してるの、ふんわりなハナシだから。今それは、別に主題じゃないのだよ。
あれっ。なんかおかしいぞ。
キミ、杉田君か。違うだろう。違うよな。席次表がズレてる。
さてはキミ、間違えたな。
〝小説における男女同権及び性的多様性の表現会議〟は、第八会議室だぞ。
もう終わる時間だけど、行くの。ええとね、二つ上の階だよ。走らないようにね。ウチ労災ないから。気を付けて。
で、ええとなんだっけ。そう、戦場で女性だとバレない方がいいハナシだったな。ギリギリ理屈として成り立つのは、胸部を保護する観点からプレートと肌の間に余裕を持たせて置くことくらいか。なんか保護材とかつめられるしね。あとは
ま、そう言うな。だいぶ苦しい理屈なのは、私が一番理解している。そう白けた顔をするな。急所には違いないんだから重要な話だろ。
つまり異世界では、いきなり女性のカップを言い当てるのはさらに不自然だ。
ん、そこの挙手したキミ。どうぞ。
ふむ。まったくその通り。
女性キャラの身長や体型というのは男性読者にとって重要な問題だ。
いつまでも不明にしていて、良いモノではない。
どうだね諸君。まことに全くその通りだと、私は思う。
今の聞いてたか?
あのね、もっとこういう意見を言いたまえよ、こういう意見を。
見習いたまえ諸君。では今の問題提起について、どうかな。
じゃそこのキミ。
うむ、そうだな。まず年齢というのがある。いくら何でも歳が十やそこらじゃな。というか読者が勝手に判断するだろう。まあそれは前提な。胸が有るか無いかの問題以前っていうか。話はそれなりに成長してからの場合だからな。
えっ。もう一回言って。意味わかんない。いや俺は十歳をバカにしてない。
はあ? 十でも胸が有る?
何を言ってる。特殊な方面の劣情を神聖なる会議に持ち込むのは許さんぞ。退出しろ退出。うるさい、議長の俺が退出といったら退出だ。おいおい。
ま、まあなんだ。なにも泣く事は無い……と思うぞ。
わかった。熱意はわかった。そういった、前提の確認は大事だ。繰り返すが諸君も彼のようにこう、意見を出す姿勢と情熱をだな、見習いたまえ。うん。
えーと。どうした、お通夜じゃないぞ。
他にはあるかな。じゃあキミ。
フム。そうだな。なかなかいいと思う。
とりあえず行っとけ行っとけ、な性格のお姉さんキャラにしとけば、なんかそれなりにバスト豊満なんじゃないか、と。ひいてはそこそこ胸もあるだろうと。
これはなかなか、いい意見なんじゃないか。敢えてステレオタイプにしてみるという事か。とりあえずパリピかビッチにしとけって話な。
あっマズイ。
早川君、今の議事録から消しとけよ。マジで消しとけよ。チェックするからな。
そうだな、応用としてボクっ子に対し、いきなり極端なグラマラスを連想する男性も少ないだろう。ほどほどにスレンダーだろう。これは深いな。
つまりキャラ付けからすでに、作者対読者のバストサイズ考察戦は始まっているという訳だ。直接の描写を避けたい場合、この手の戦法は有効だな。
ヴァリエーションは無限だ。
ほかにも筋肉とかのパーツ描写から、とかだな。私としても、サイズを暗に伝える方法の草案は、いろいろ残しているのだが……。
もう時間か。残念ながら発表する時間がない。
いや本当だし。本当にアイデアあるし。
なんだやるのかこのヤロー。議長だぞ、私は。
ではでは同志諸君、議題の振り返りと、分析の提出はいつもの手段で頼む。
書類はいつものように、全て机の上に残して部屋を出るように。
次の議題は、ええと……
〝キャラの虹彩に喩えられる宝石あるいは鉱石の種類及び総数についての会議〟
だって。なんじゃこりゃ。そりゃ確かによく見る気もするね。
しかし、コレ会議の必要あるかなぁ。ご隠居も何考えてんだか。
だって調べたら終わりじゃないかコレ。鉱石の図鑑とかでさ。
早川君、やっといてくんね。
いいじゃん。俺、議長だぞ。
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