エッセイ:まあ言えないよね。書くのやめるな、て。

 もう消えた垢なのだが、まあまあ最近のことなので

「あ、もしかしてあの人かなぁ」

 って何となくアタリがつく人もいると思う。

 

 彼(彼女?)は『挫折』とやらをしたと言って、筆を置く宣言をした。

 んで、宣言通りカクヨムとぺけッターのアカウント消してどっか行った。


 いうて、ネットではよく見るテの話だ。

 正直いうと、僕はわざわざ周囲に宣言して、アカウントを消して、なんて七面倒くさいことをする気持ちがよく分からない。放っておけばいい。黙って消えればいい。これは、意見とか、ましてや悪態というほどのモノではないぞ。僕ならそうやってスッといなくなるだろうなァ、と思う。

 熱意を失くすってそういう事だと思うし、おもちゃに飽きた子供みたいな振る舞いになるんじゃないだろか。自分の書いた文章とか書く行為自体に意味を見出せなくなると、そうなるんじゃないか。フラッと。僕自身はそういうタイプだと思う。

 やはり何らかの執着があるから、キッチリとケリをつけておきたくなるんだろうな。それは随分やりきれない気持ちだろうと思う。ただ非常にわずらわしそうだな、とも感じる。まあそういう行為って、少しは自己陶酔とか儀式的なトコもあるんだろうね。そりゃシラフじゃ辛い。やっぱり疲れそうな慰みだ。


 ……でもさ、そのうち、またちょこちょこ書いちゃうんじゃないかな? 

 もしくはふっと、気づけばアタマん中で言葉を紡いでた自分に気が付いて、苦しんだりするんじゃないか。なんとはなしに、そんな気がする。世界のどこかで彼は煩悶を続けるのだろう。今も続けてるだろう。どうせ逃げられはしない。


 文章を書いてしまう人種なんてのは、しょせんはアタマの中をナニカでしっかりコンガリ焼かれている。そりゃもう芯までコンガリだ。焼かれて割れた卵は、もうナマには戻らない。ヒビも元通りにならない。漏れ出してくるので、なにかを形にすることがやめられないと思う。見出してる価値や喜びや目標は、個人の数だけあるだろう。名目だね。夢とか信条とか野望とか趣味というやつだ。それはひとまず、どれでもいい。どうせ、何ごともなかった様に別人になったみたいに、やめられるもんじゃない。死ぬまで続く呪いじゃないかなーっと、僕は思う。


 彼には彼の戦いが続くし、僕には僕の戦いが続く。

 さみしいだけさ、それだけさ。そう思ってその夜はベッドに入った。元々あんまり寝つきのいい方ではなくて、まぶたの裏の黒いオーロラをいつも通り、ぼーっと眺めていた。しっかし、なかなか意識が落ちない。流石にかったるい……。と思って、時計を見ると午前二時半だった。もうたいしてゆっくり眠れん。 

 結局僕は、自分がひどく苛立っていることに気が付いた。


 心臓にすごく小さな黒蛇がとぐろを巻いていて、牙から神経毒を染み出させては血管に押し込んでるみたいだ。ソレが全身に行き渡って、毛先から皮膚まで、ビリビリジリジリしてるのだ。すとんと眠れない。


 うーん。こいつはなんなのかなぁ。もぞもぞするのは諦めて、灯かりをつけた。ジンをワンショットだけ注いで、コップの水道水をチェイサーにした。それを夏の終わりの死にそうなカブトムシみたいにチビチビ舐めながら、じっと考えた。


 冷めたような事を考えながら、実は僕はひどくワガママに激怒してるみたいだった。

 そうだ。消えるなら、いつのまにか消えていてくれれば良いのに。挫折したなら、僕の見えないところで黙って膝を折って、口をつぐんでれば良いのに。

 つまりなんのことはない、しっかりショックを受けて臓腑が煮えくり返っているわけだ。だれであろうと僕の感情を乱さないでほしい。すごい理想抱くやつだなコイツ。我が心ながら、滑稽このうえなくて笑ってしまう。なんて自分勝手でかわいいヤツだろう。

 自分がことになっていて怒ってるのが、特に僕らしいっちゃらしい。

「他者の感情ばかりをおもんぱかっていて、好きにやれるものかよー!」(CⅤ飛田)

と普段から思って言ってるくせに、自分はアッサリ被害に合い、しっかり感傷的になっている。全然一貫してない。自分勝手この上ない。強がり言ってるだけだ。大ブーメランだ。受け流せよってハナシだよ。今宵、オノレを嗤ふ。


 また別種の苛立ちもあるみたいだった。僕は

 と思った。つまり彼が努力したのに結実しない、そんな世界は間違っている、と僕は腹を立てていた。もう笑っちゃう。おいおいローティーンか。あれか、恋人殺されて世界を滅ぼす決心をしちゃう系のキャラか。あの極端この上ないタイプな、今時みねえよ。

 高校の聖書の授業を受けて抱いた感情に似てるかな。あれ結構腹立つんだよなー。いいからさっさと救ってくんねえかな。って思ってたな。目に痛いほど青いですね。いや今はイエス様わりと好き。


 少しずつ感情をほぐして解体していくと、体の芯も冷えてトゲも抜けていくようだった。寝ないよりましと思ったので朝まで目を閉じてた。


 不思議だよね。わざわざ、止めちゃうんだって。書くのやめるんだって。決めたんだって。あーあ。どうせだから言えばよかった。本当は言いたかったかもしれん。

 止めるなよ! って。わざわざさァ、辞めるなよ! おまえのけじめなんかしらねェんだわ! ていうかそのケジメみたいのとか表明とかホントに要るヤツ? 面白いんだからさー、気が向いたときに書いとけばいいじゃん! むしろ俺の為に書けっ、ぐらい。

 まぁ芸事遊び事、埒が明かないものだし、言って後悔もしただろうけど。

 いやあ、こういうのを秘めてた恋って言うんでしょうかねぇ。失って余計トゲが抜けないやつね。あるよね。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る