おい、お前だよお前

いやどっち向いてる。お前だよ。今これ読んでるお前に言ってるんだよ。そう、お前。いや、俺はあいつのことは知らない。ちがうって、お前に話しかけてる。他の誰でもない。とぼけてるのか? いや、怒ってない。わかったごめん、全然怒ってないよ。ほら、これ怒ってる眼か。よく見てくれよ。そうだろ。わかってくれて嬉しいよ。やっとお前と話せるよ。なあ、どうしてその辺でやらないんだ? 別に問題ないだろ。どうして、道端や軒下でやらないんだよ。好きなところでやればいいんだよ。いやいいって。誰も見ちゃいないよ。やっちまえよ、すげえ気持ちいいって。どうせ大して変わんねえから。ああ、まあな。ああ。いやでも、別に全部は脱ぐ必要ないんじゃないかな。いやいや、ぜんぜん冷たくないよ。本当だって。地面さわってみ。そうそう、指つけてさわってみ。結構暖かいだろう。お日さまがしばらく当たってりゃあ、こんなもんだよ。そうか、そうくるか。こだわりがあるんだな。でも五月蠅いのは大通りだけだよ。あのへんがいいよ。そうそう、あっちの方らへん。最近は駐車場ばっかりできてるからな。すごい静かだよ。違うの? じゃあおかしいだろ。なんでその辺でやらないんだ。すげえ気持ちいいのに。やるべきだよ。それに駐車場にキノコ生えてるよ。うーん、なんでだろうな、木造アパートが隣にあるからじゃないかな。食べても管理人さん怒らないよ。そのぐらい良いところだよ。ごめん毒についてはわからない。茹でればいけるんじゃねえの。ええ? 分からないな、絶対おかしいよ。おかしいと思わないか。違う、キノコが食べれるかどうかじゃない。それは置いといて。いや、なんか俺にはよく分からないんだけど。お前はさ、誰に気を遣ってるからやらないの? やろうよ。ああ。あー。いや、大丈夫だって。そんなにお前は偉くないから。いやごめん。そういう意味じゃない。ごめん。お前は偉い。とても頑張っている。俺知ってる。そういう事じゃなくて、誰もお前のことなんか見てないんだよ。誰もお前の事は気にしちゃいない。これってお前に限らないけどさ。どうせお愛想してるか、すぐ忘れるかのどっちかだよ。違うね、そういうのアレだぜ、アレっていうんだぜ。俺知ってるんだ、ちょっと待て思い出すから。こう見えて俺、ダイガク出てんだぜ。ええとな、あのさ、ええとゴメンやっぱりいいや。いつでも思い出せるよ。思いついたら言うよ。あっ、ジイシキカジョウとかいうんだろ。違わないだろ。ほらな。あとやっぱりね、俺が言いたいのは、このごろは誰も他人を見てる奴なんていないって事だよ。みんな自分が傷付きたくなくて必死だ。そのくせ構ってほしいみたいなんだ。不思議だよな。あ、いやごめん。今重要なのはお前がなんでその辺でやらないんだってことだ。すげえ良いのにな。でも不思議だよな。みんな何を守ってるんだろうな後生大事にさ。文字通りそのまんまキュっと死ぬんじゃねえかなってさ、時々ほんと心配になるんだよ。俺? 俺はやるよ。いつもやってる。まさか。そんな珍しいこっちゃないよ、普通だよ。最近はたしか、一昨日の朝だよ。いや別に寒くなかった。気持ちよかったよ。すっげえ良かった。なにハナシ逸らそうとしてるんだ。逃げるなよ悲しいなあ。今はお前の話をしようよ。おまえがどうしてその辺でガンガンやらないのか、話をしよう。俺は俺でやってるから大丈夫だ。それに俺はお前に話しかけてるんだよ。なんだその顔。俺はお前に話したいんだよ。理由なんてわからないよ。特に無いんじゃないかな。好きなんだと思うよ。違うよ、話すのはさほど好きじゃないよ。どちらかというと嫌いかもしれない。いや、多分お前のことが好きなんだと思うよ。そもそも俺、嫌いな奴ってあんまりいないし。理由になっていない。そうか。確かに理由にはなっていないか。多分、だもんな。推定だもんな。そう言われるとそんな気がしてくる。理由必要なのか。よしわかった。俺は・お前が・好きだ。これでどうだ。なかなか立派になっただろう。権利って、いや権利って言われても。ええ? 必要なのか、権利が。お前難しい奴だな。じゃあお前と話す奴は、いちいち権利の行使を宣言してるのか。いい奴だなそいつ。大事にするべきだよ。だから尚更なんだが。余計なお世話だとは思うんだが。そういう事させるの、あんまり良くないんじゃないかな。毎回その手続き踏むの大変だろう? なぜってほら、義務化してるじゃないか。しなければなりません、ってやつだ。普通なら嫌だと思うんだ。でも、お前が良い奴だから、文句が出ないんだよ。これは凄い事だよ。やっぱり大した奴だよお前。違うって、何が違うんだ。違わないだろ。教えてくれよ。せめて俺に権利がない理由を教えてくれよ。ふむ。そこいら辺ではやりたくない。やる気もない。待て待てそれこそ理由になってるか? すごい気持ちいいんだぞ。考えてないだと。俺がお前のことを考えてないっていうのか。違う、それは誤解だぞ。いいかまず、たった今この瞬間を考えろ。俺ほどお前に語りかけている奴がいるかどうか。考えたか? 次は親兄弟を除いて考えろ。俺ほどお前に語り訴えかけている奴が、普段どれだけいるか。どうだ。どうなんだよ。お前には居るのかどうか考えたか。浮かんできたか。答えなくてもいいよ。まあなんとなく想像つくよ。だからお前は今驚いている。それで言われる理由とか、言う権利とか、必死に持ち出して振り回してるんだ。そんなものはゴミだよ。わからない、怖い、武器が無い、ポケットをまさぐる、手のひらで地面をさぐる。その結果でてくるゴミだ。つまりは糸くずかレシートか石ころだな。ほらな、全部ゴミだろ。いいんだよ石投げても。よけるけど。当たったらその時考える。だって俺は怖がられてもいいんだから。お前が好き放題して気持ちよくなればそれで満足なんだから。間違いなく俺は今、お前だけをすごく愛している。それは認めるだろ?

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