掌編気まぐれサラダ炒めつまりネタ帳のごった煮

秋島歪理

島田と俺の贖罪

「なあ、本当にやらなきゃならんのか」

 と俺は言った。

「しつこいぞ。ベティのためだ」

 と言いつつ島田はシャツの襟を立て始めた。

「いやおまえがそうしなきゃならんならやりゃいいんだけどね。なんで俺までやらなあかんの? ってことでね」

「説明したろう。おまえがやらなければ意味がないんだ」

「あのね、蒸し返すけどアイツは、お前のシマリスであって俺のじゃないわけね。それでなんで俺がね」

「アイツとはなんだ。彼女とよべ。そもそもがお前のせいなんだ」

「だってシマリスじゃないか」

「シマリスなら殺していいのか。おまえが原因なんだぞ」

「お前の親戚の葬式で俺がくしゃみしたのがさぁ、お前のシマリスに悪いのかよう」

「ベティだ」

「参ったなぁ」

「いくぞ」

 そういって島田は覆面をしてしまった。

 仕方なく俺も目だし帽をかぶる。

「参ったなぁ」

「ほれ、銃だ。おまえの分もある」

「なんだって。モデルガンか」

「違う」

「まさか本物か」

「エアガンだ。装弾24発、プルコッキング方式」

「なんだよ二千円ぐらいじゃないか」

 島田は俺にエアガンをおしつけるとさっさと車のドアをあけてしまう。

 畜生、こんなところ、見られただけで通報ものだ。

「参ったなぁ」

「さっさとすますぞ」

「だってさ、お前、あれだろ。獣医にいけばいいんだろ」

「これは必要なことなんだ。原因をつくったのもお前だ」

「こう、科学的なアプローチをまずしない?」

「よし、ついてこい」

「参ったなぁ」

 そして我々は深夜のヤマザキパンに突入した。

 俺が葬式でくしゃみをしたばかりに死にかけている島田のシマリスのために、フィリップモリスのライターを奪わなければならない。

 贖罪としての強奪だ。そうらしい。

「いいか、他のものは獲るな。変な気をおこすなよ」

「やることは同じじゃないか、なんだっていまさら」

「他のものを獲ったら意味がないんだ」

「参ったなぁ」

「非売品だから、こうするしかないんだ。しょうがないんだ」

 俺は銀色のライターと、毛並みを取り戻した彼のシマリスを思い浮かべる。

 贖いというのはそんなもんなのかもしれない。

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