優しき少年の冒険心と好奇心が記憶の扉を開ける

オリエンタルな雰囲気に包まれた集落を舞台に、ひとつの神話が紡がれます。

読み手は、やがて重層構造を持つ神話であることに気付きますが、会話はユーモアに満ち、頓知も利いて軽快至極。心躍る問答と謎掛けで、想像が膨らみ、妄想も捗ります。坊やが愛おしくて堪らなくなるでしょう。

集落に現れた血塗れ危篤の患者、禁忌の森。同時に不穏な行く立ても示唆され、危機を孕んだ物語の進展に胸がざわつくのです。

風変わりな名を名乗り、怪しい単語を弄する患者の男はマレビト(稀人・客人)で、好奇心と冒険心、そして義侠心に満ちた坊やを本物の冒険へと駆り立てます。衝立を設け、禍をなすかのような「高位の存在」は果たして何者なのでしょうか?

時間と場所、記憶と想い。それらが交錯し、また新たに浮かび上がり、照らし出されます。軽やかな浮揚感と高揚感に包まれる最終幕は見事で、他の読者の喝采が聴こえてくるようでもあります。

そして結ばれた物語が、ひとつの神話、その断章ではなく、より壮大な神話体系の端緒にある旨を報されます。ふとタイトルを仰ぎ「編」の一文字を見て、なるほどと合点し、今後の活躍に期待を滲ませるのです。

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