第15話 お嬢様の部屋
クラリスさんの家は思った通りの豪邸だった。
さすがは貴族のお屋敷といった感じで、とても数分で回り切れるほどじゃなかった。
僕の実家もそこそこ大きかったけど、それでもやっぱり貴族はけた違いだなぁ。
そしてクラリスさんの部屋に通されると、さらに驚いた。
「こ、これが部屋……!?」
そこは個人の部屋というにはあまりにも広い空間だった。
いくつかの仕切りがあるとはいえ、パーティーホールと言ったほうがまだ通じる。
こんなところじゃ落ち着かないだろうな……。
女の子の部屋というからもっとプライベートな空間を想像していたけど、これじゃあ想像と違いすぎる……。
女の子の部屋らしい甘い香りが漂ってくるようなこともなく、ただただ広い空間というかんじだ。
「ではカグヤさん、この部屋にぴったりの家具を作ってくださいな!」
「え、ええ……。でも、この部屋に合うような家具……僕に作れるんでしょうか……」
「カグヤさんは以前、武器職人ギルドで働いてらしたのですわよね?」
「は、はい。そうですけど……それが?」
「武器のようなカッコいい細工を施した、そういう家具が欲しいですわ!」
「えぇ……!?」
僕は声を出して驚いた。
てっきり、もっと女の子らしいカワイイ家具を要求されるのかと思ったんだけど……?
お嬢様の趣味っていうのは、よくわからないものだ。
でも、たしかにこの部屋にはそういう迫力のある家具のほうが合っているような気もする……。
「わ、わかりました! できるだけ頑張ってみます……!」
僕はそれから、部屋に一人きりにされて作業を始めた。
元からあった家具はどれも運び出されているから、なにもやましいことはない。
僕を待っている間、お嬢様ははなれで過ごすようだ。
◇
「よし……! これでどうかな……!」
それから数時間して、僕はいくつかの家具を仕上げた。
まるで武器に施す細工をそのまま家具にしたような、かっこいいものばかりだ。
椅子の両端には剣のようなオブジェがついているし、ベッドの足は斧の持ち手のようなゴツゴツ感だ。
まあ、14歳くらいの男の子なら大喜びするかもだけど……。
この家具で普通の女の子が喜んでくれるかは微妙だ。
だけど――。
僕の作った家具を見るなり、クラリスさんは手を合わせて大喜びした。
「まあ! カグヤさん! あなたは天才ですわ!」
「えぇ……?」
「他の職人に言っても、ここまで武器っぽいかっこよさはありませんでしたもの……!」
「まあ、そりゃあそうでしょうね……」
普通の家具職人には、ここまでの細工は難しいだろう。
いつも武器を作るところを間近で見てきた僕には、簡単だったけどね。
武器を作ることはできないけど、それっぽいモチーフの家具ならお手の物だ。
どうやら僕のスキルは、家具の範囲に収まるものならなんでも作れるみたいだしね。
思ったより家具の範囲は広いようだから、これからも使いようでいろいろできそうだ。
「特殊な家具だけじゃなくて、こういった普通の家具の美的センスもあるだなんて……! さすがは噂に名高いカグヤさんですわ!」
「まあ、これもかなり特殊っちゃあ特殊な家具ですけどね……ある意味……」
まさか貴族のお嬢様がこんな少年のような趣味をお持ちとは思わなかったなぁ。
これはこれで、ギャップがあってかわいらしくはあるけどね。
こういったところも、貴族として育つと世間とは感覚が違うのだろうか。
ラクラリス家は、他の家具もどれも荘厳だったからなぁ。
「さっそく、こちらの椅子に座ってもよろしくって……?」
「もちろんです。座り心地を調整しましょう!」
「あら、調整しなくても、すでにとっても心地よくってよ」
「…………!?」
なんとも不思議なことに、クラリスさんが椅子に座ると、さっきまで感じていた違和感は消え去った。
まるで彼女のために作られたと言わんばかりに、その椅子はぴったり似合っていたのだ。
クラリスさんが座るだけで、この部屋のイメージがガラッと変わった。
さっきまではイメージに合わないと思っていたが、それは間違いだった。
実際にクラリスさんがその場にいると、どうしてだろう……とっても似合うとしか表現できない。
きっと高貴な雰囲気の彼女には、もはや普通の家具では見劣りしてしまうのだろうか。
とにかく、家具の持つ力強い雰囲気は、見事に彼女の部屋としてマッチしていた。
「とってもお似合いです、クラリスさん!」
「まあ、ありがとうございます。カグヤさんの作った家具ですもの、当然ですわ」
「ありがとうございます……! 僕もうれしいです!」
後で鑑定してみてわかったのだが――。
クラリスさんの部屋の家具は、どれもかなりの攻撃力を持っていた。
まあ、見た目も武器みたいにゴツゴツしているから、当然かもしれないけど……。
どうしても僕の作った家具は、なにも念じなくても勝手に特殊な家具になるようだ。
お嬢様の部屋の家具がどれも伝説の武器級の攻撃力を持っているだなんて……。
まあ、このことは黙っておこう……。
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