第16話 お嬢さまの願い
クラリスさんの部屋をハウジングして、その後。
僕はクラリスさんから神妙な面持ちで話を切り出された。
「カグヤさん、実は……本日こうしてわざわざお越しいただいたのは、なにもわたくしの部屋の家具を作ってもらうためだけではありませんの……」
「え……? そうなんですか……?」
も、もしかしてこのまま迫られたりするのだろうか……。
さっき僕は作ったばかりのベッドに……!?
いやいや、まさかね。
「実は、わたくしには妹がいるのです」
「はぁ、そうなんですか」
「そして、妹は足が不自由なのです」
「それは……悲しいですね……」
だが、それを僕に話てどうしようというのだろうか。
いくら僕の超回復ベッドでも、足を治したりはできないと思うんだけど。
「妹は、花が好きでした。まだ元気に歩けたころ、よくいっしょに近所の丘へ、花を見にいったものです。ですが、今では出かけようにもいちいち大掛かりな準備が必要です」
「それは、大変ですね……」
「ええ、そのせいで、妹は迷惑をかけないようにと、いつしか完全に引きこもるようになってしまいました」
「そうなんですか……」
「ですが、カグヤさんならなんとかできるようなきがするのです……!」
「えぇ……!? そんな、無理ですよ……! 僕は医者じゃないんですよ! ただの家具屋です」
「お願いします! ダメもとで頼まれてくれませんか? せめて、妹に一目あってもらえるだけでいいのです!」
「僕が、妹さんにですか……?」
クラリスさんはまるですがるように僕の手をとって、目を見つめてきた。
そんなことまでされると、断れない……。
彼女はよっぽど、その妹さんのことを大事に思っているんだろうね。
「カグヤさんのようなかわいらしいお顔の若い男性と会えば、妹も少しは活気づくと思うのです。いつも、部屋にこもって本ばかり読んでいて……。顔を合わせる男性といえば歳をとった使用人くらいですから」
「そ、そんな……僕なんて……。というかまあ、僕でよければ、ぜひ! なにか力になりたいです!」
「まぁ! さすがカグヤさん、おやさしい。感謝いたしますわ!」
そして、僕はクラリスさんの妹さんの部屋へと通された。
妹さんの部屋もクラリスさんの部屋と同じくらい大きく、さすがは貴族のお屋敷といったところ。
だけど、妹さんの部屋はクラリスさんの奇抜な部屋と違って、なんとも女の子らしい部屋だった。
そして、とても静謐な空気が流れていた。
綺麗に掃除されていて、妹さんが家族から大事にされているのがとてもよくわかる。
まるでそこだけ別の空間かのような、神聖な雰囲気があった。
「ラファ……? カグヤさんをお連れしましたわよ。ほら、前に話した」
「こんにちは。カグヤといいます」
僕は恐る恐る、部屋に入って一礼した。
すると、クラリスさんの妹は椅子に座ったまま、こちらを振り向いて会釈した。
「ラファ=ラクラリスと申します。姉がお世話になっております」
「か、かわいい……」
「え……?」
ラファさんはまるで絵画から飛び出したような清楚な女の子だった。
神秘的といってもいいかもしれない。
クラリスさんやアイリアさんとはまた違ったしゅるいの美しさというか、むしろ神々しくもある。
「そんな、カグヤさん。かわいいだなんて……」
「本当です! ラファさん、とっても美人ですよ!」
ラファさんは褒められなれていないのか、顔を真っ赤にして恥ずかしがった。
ずっと家にいるとはいえ、白すぎる肌に、頬だけが赤く染まって印象的だ。
「ラファさんは、ずっとこの椅子に……?」
「ええ。私は自分では歩けませんから……。動くときはこの椅子を使用人に運んでもらっています」
「なるほど……そうなんですか」
でも、いくら屈強な男性でも、いちいち椅子ごと彼女を持ち上げるのなんて大変だ。
そりゃあ、僕がラファさんでも申し訳なくなってこもりがちになるかもしれないね……。
なんとかしてあげたいな……。
彼女のようなカワイイ女の子が、ずっと家にいちゃもったいない。
僕はもっと日の当たるところで、彼女の笑顔が見たいと思った。
「よし……! 僕に任せてください!」
「なんとかできるんですか……!?」
「はい! たぶん! やってみます!」
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