第4話 超回復ベッド
「だ、誰か! この中に医者はいないのか……!?」
そんな叫び声が、避難所の中に無情にこだまする。
この街に優秀な医者はほとんどいない。
いたとしても、今頃冒険者たちと一緒に出払っているはずだ。
みんな失敗を責められるのが怖いから、誰も手を上げるものはいない。
「誰か! 助けてくれ! すごい数のけが人なんだ!」
運ばれてきたのは、モンスターに襲われたせいでけがをした人たち。
老若男女がいて、逃げるときにがれきでけがをした人もいる。
「兵士団の医療班はいないんですか……!?」
「それが……兵士団はほぼ壊滅状態だ……。医療班は兵士優先で、こっちには手が回らない!」
「そんな……!」
なるほど、そういうことか。
医者たちはみんな兵士優先で、民間人は後回しというわけだね……。
ひどいけど、合理的に判断するとそうなってしまうのだろうか。
民間人はお金もないしね……。
「いやあああああ! 痛い痛い痛いいいいい!」
「こら、我慢しなさい!」
大声をあげて泣いているのは、まだ年端もいかない少女だった。
腕をけがしているようで、母親に泣きついている。
くそ……こんなに困っている人がいるのに……医者はなにをやってるんだ……!?
僕はやりきれない思いだった。
「カグヤくん……」
「アイリアさん。なんとかしましょう!」
「え……?」
「家具を作る工具を出してください!」
「工具ならありますけど……どうするんですか……?」
「少しでも、自分にできることをやってみます!」
医者じゃないからけがを治すことはできないけど、僕もなにか力になりたい!
なにもしないではいられなかった。
家具職人である僕にできることといえば、家具を作ることだけだ。
さっそく、僕はその辺に落ちている瓦礫をかき集めてきた。
不幸中の幸いか、街はいろんなところが壊されていて、どこでも木片が拾える。
「これをこうしてっと……!」
僕はありあわせの素材で、ベッドを作り上げた。
けが人が少しでも安静にできるように、ベッドは必要だからね。
避難所とはいえ、地べたにそのままではいくらなんでもかわいそうだ。
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《超回復ベッド》
制作者 カグヤ
耐久値 90/90
回復量 150/h
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「な、なんだこれ……!!!?」
またしても、僕の作ったベッドには意味深なパラメーターがついていた。
回復量……ということは、このベッドには回復効果があるということだろうか……!?
「す、すごいですよカグヤくん! これはエンチャントベッドですよ!?」
「え、エンチャントベッド……?」
アイリアさんは僕の手を取って喜んでいた。
それほどまでにすごい家具を作ってしまったのだろうか。
確かエンチャントっていうのは、なにか特別な能力が付与されたもののことを言うはずだけど……。
エンチャント武器は知っているけど、まさか家具にもそれがあるなんて。
「エンチャント家具というやつです。高名な家具職人にしか作れない、伝説の家具ですよ!? もう今の世の中ではロストテクノロジーとされています……! でも、カグヤくん……一体どうやってそんなものを……!?」
「ぼ、僕はただ……少しでも治療の役に立つようにと祈りながら作っただけです」
「それでこんなものができるなんて……やっぱりカグヤくんは家具作りの天才です!」
「そ、そうなんですかねぇ……?」
自分でも驚きだけど、これは願ってもない光明だ。
この家具を使えば、きっとけが人を治療できる!
僕はさっそく、さっきの女の子のもとへベッドを持って行った。
「あの、よかったらこれを使ってください!」
「こ、これは……?」
「ベッドです! せめて横にならせてあげてください!」
「まあ、ありがとうございます」
少女の母親は快く頭を下げると、娘をベッドに寝かせた。
彼女はあまりの激痛に、すでに意識を失っていた。
だが……ひとたびベッドに寝かせると、どうだろうか――。
「あ、あれ……? ここはどこ……? 痛みが……」
少女の腕はみるみる回復し、すぐに目を覚ました!
「ジェシカ! よかったぁ! お母さん心配したのよ!」
「ママ……!? すごい! 痛みが引いてる!」
親子は感動の抱擁を交わす。
そして母親が僕の目を見て、涙ながらに礼を言った。
「あ、あの……どなたか存じませんが本当にありがとうございました! あなたは神様のような存在です!」
「い、いえ……それほどのことは……。でも、本当によかったです! よくなって」
「ありがとうございます。ありがとうございます」
そんなやり取りをしているうちに、噂が避難所中を駆け巡った。
「おい、アンタ! こっちにもベッドを貸してくれ!」
「はいどうぞ!」
いつしかベッドの周りには行列ができていた。
「でもどうしよう……ベッドが一個じゃかなり時間がかかる……」
新しくベッドを作ろうと、僕は建材を探す。
しかし、ちょうどいい木片が足りないのだ。
道に落ちているものなら、遠慮なく使えるが、さすがに半壊しているとはいえ他人の家から建材をもぎとってくるわけにはいかない。
そうやってうろうろしていると……。
「おい家具職人の兄ちゃん! うちの家を使ってくれ!」
「え……? いいんですか……?」
「ああ、もう壊れてしまってどのみち建て直しだ! 遠慮はいらねえ、もってってくれ!」
「ありがとうございます!」
優しい街のおじさんが、自分の家を建材として提供してくれた。
おかげで、ベッドは作り放題だ。
有事の際は本性が出るっていうけど、優しい人もいるんだなぁ。
「おーい、うちの家も使ってくれえ!」
「こっちは毛布をもってきたぞお!」
そんなふうに、いつしか避難所の中はみんなの助け合いの輪でいっぱいになっていた。
最初の険悪な雰囲気とはうってかわって、みんな前向きに助け合っている。
「すごいです、カグヤくんの行動で、街の人たちが力を合わせましたよ!」
「いえ、僕はなにも……」
アイリアさんは僕を褒めすぎだ。
今まで怒られることばかりだったから、慣れないなぁ。
ベッド作りは夜までかかった。
でも、おかげでけが人全員を寝かせられるだけの病床が整ったよ!
「本当にありがとう! あんたはこの街の救世主だよ!」
「英雄カグヤに乾杯!」
「家具ってのも捨てたもんじゃねえな……!」
「あなたは本当に人のために動ける優しい人ですね……!」
なんて、街中の人たちから褒められてしまった。
一夜にして一生分褒められたような気がするよ……。
「ふぅ……さすがに疲れたな……」
「大丈夫ですかカグヤくん? 今日はもうゆっくり休んでください。カグヤくんが倒れたら本末転倒ですから……」
「ありがとうございますアイリアさん」
僕はそのまま、アイリアさんの横でいつしか寝てしまっていた。
目が覚めると、アイリアさんが膝枕をしていてくれたのだが……。
あまりの恥ずかしさと申し訳なさに狸寝入りを続ける僕なのであった。
さすがにこの報酬は、もらいすぎな気がするよアイリアさん……!
「ふふ……カグヤくん……もしかして起きてますか……?」
つんつん、と頬っぺたをさわられて、僕はもうどうしていいかわからなかった――。
◆
天才的な家具スキルで街を救ったカグヤ。
しかし、一方のブキラは……このあととんでもないことをやらかして、街の人たちから大変な反感を得るはめになるのであった――。
【あとがき】
1話と2話に少し修正入れました。読み返さなくても大丈夫ですが念のため。
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