第5話 ブキラのミス【side:ブキラ】
どうやら俺が絶望に打ちのめされているうちに、モンスターは無事に討伐されたようだった。
道端に座り込んでうなだれていた俺を、部下であり俺の女であるマキ=アートが見つけてくれた。
「ブキラさん! こんなとことで何をやっているんですか……!?」
「お、俺はもうダメだ……。最高傑作である炎魔剣――オートクレールも失った」
「そんなこと言ってないで立ってください! ギルドは無事です! さあ!」
「なに……!? モンスターはもういないのか……!?」
「誰が倒したのかはわかりませんが、とりあえずもう終わったようです!」
「そうか! はっはっは! ようし、運命は俺に微笑んだわけだな! がっはっは!」
さすがはブキラ様だ。我ながら運がいいぜ!
一度はすべてをあきらめた俺だが、ここからまたやり直そう。
別に武器だってまた作ればいいだけの話だ。
愛する部下、マキのおかげで気を取り直した俺だった。
そんな話をしていると、俺たちの横をものすごい勢いで兵士たちが通り過ぎていった。
何事だ……!?
「どいたどいた! けが人が通るぞ!」
「すごい量のけが人だ……!」
どうやら先のモンスター襲来で、かなりの負傷者が出たらしい。
俺はこれをチャンスととらえた。
「おい、マキ! さっさとギルドに戻るぞ!」
「え……?」
「儲けるチャンスだ! ギルド長としての初仕事だぜ!」
「はい……!」
けが人が出れば、ポーションや回復薬が売れる。これは商機だ!
あいにくうちは武器職人ギルドだから、回復は門外漢だと思うだろう?
だが、俺にも回復に関するアイテムを作ることができた。
「回復の矢だぜ……!」
武器職人ギルド【神の
回復の矢――それは武器の一種でありながら、味方を回復させることのできる超便利なアイテムだ。
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《回復の矢》
制作者 ブキラ
質 粗悪
回復量 30
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「まあ、こんなものかな……!」
回復の矢の制作は、俺はあまり得意ではない。
そのせいで前ギルド長のころはクラフトを禁止されていたな……。
まあ、今となっては俺がギルド長だから、関係ない話だ。
部下に作らせるよりも、俺が作ったほうがはるかに速い。
「質が悪いようですが……大丈夫でしょうか……?」
「はぁ? 俺の作ったものに文句を言うのか?」
「い、いえ……すみません」
手下のトリマーとかいう男がケチをつけてきやがったが、黙らせた。
こういう上下関係はしっかりしないとな。
舐められたら、ギルド長は務まらねえ。
残っている職人総出で回復の矢を作ること1時間――。
「よし……!」
回復の矢5000本が完成した……!
素材となる木材は、街中に落ちている瓦礫からとってきた。
もはやどこの家も半壊しているし、勝手に持ってきても誰も文句は言うまい。
これぞ経費削減の節約術だ。やはり俺は天才だ!
必要となる水も、半壊した街の井戸からとってきた。
普段は鍵がかかっていて自由に水を使うことはできないが、モンスター襲来のおかげで鍵が壊れている。
どさくさに紛れて水も使い放題だぜ……!
瓦礫やほこりが入り込んだせいで、少々汚い水だったが、まあ問題はないだろう。
「よし……! さっそくこの回復の矢を兵士団にもっていくぞ……!」
「はい! さすがはギルド長! 天才的発想です……! そこに痺れます!」
「本当にブキラさんは優しいわね……! 憧れるわ……!」
俺はトリマーとマキに褒められて、自信を取り戻した。
ピンチをチャンスに変えるのが俺様なのだ……!
一体誰があのモンスターを討伐したのかは知らないが、誰であろうと感謝だな!
まあ、できれば俺が倒したかったところだが、今回は手柄を譲っておこう。
◇
兵士団に回復の矢を売りつけて一日が経った。
あまりにも多いけが人のせいで、ポーションが足りなくて困っていたそうだ。
おかげで、かなりいい値段で売りつけることができた。
ポーションを作ろうにも、街のポーション師も負傷していたりで色々大変らしいからな。
「おい! ブキラはいるか……!? ブキラ=ボウクエットはどこだ……!?」
突然、そんな声がギルド内にこだました。
どうやら兵士団からやってきた男のようだ。
もしかしたら、俺に回復矢の礼を言いにきたのかもしれないな。
律儀な連中だ。
「俺がブキラだ。いや、なに。礼はいらないぞ。俺も儲けさせてもらったからな!」
「はぁ……? なにを寝ぼけたことを言っている!」
「は……?」
「いいから来い!」
「な、なんだっていうんだ……!? クソ! 離せ!」
兵士は俺の首根っこをつかむと、強引に兵舎まで連行した。
くそ……俺は武器職人だから、兵士のゴツイ腕には逆らえない。
俺がいったいなにをしたというんだ……!?
「ぶ、ブキラさん……!」
後ろから、あわててトリマーとマキが追いかけてくる。
乱暴に引きずられて、俺は兵士たちの前にさらされる。
――ドン!
まるでゴミでも捨てるかのように、俺は地面に叩きつけられた。
くそ……! 兵士に囲まれ、こんな仕打ちを受けるなんて……屈辱的だ。
「ど、どういうことだ……! こんなことをしてただで済むと思うなよ!」
「それはこっちのセリフだ……! この回復矢を見ろ……!」
「こ、これは……!」
兵士たちが持っている回復の矢は、たしかに俺が売りつけたものだった。
しかし、それは回復矢ではなく――。
「ど、毒の矢……!?」
「そうだ! お前が売りつけた回復矢が、時間が経ったら毒の矢に変わったんだ! おかげでこっちはけが人の具合がさらに悪くなった! これはいったいどういうことなんだ……!」
「し、知らねえ……!」
「はぁ……!? 人命がかかっているのに知らないで済ますのか!?」
「う、うるせえ……!」
いったいどういうことなんだ……!?
それは俺自身謎だった。
確かにあれは質の悪い回復矢だったが、毒の矢に変化するなんて聞いたこともない。
このままだと、せっかく俺のギルドが無事だったのに、また大変なことになってしまう。
「そ、そうだ……!」
「は……?」
「こ、これは俺のせいじゃない……! うちの部下のせいだ!」
「じゃあさっさとそいつに責任をとらせろ!」
「わかった。そいつの首を持ってくる。だから今はとりあえず許してくれ」
「っち……! とりあえず今日は帰ってもいい。だが原因の究明と、責任者の受け渡しが条件だからな!」
「あ、ああ……すまない……」
ふぅ……なんとか言い訳を思いついて切り抜けたな。
だがこれは、その場しのぎでしかない。
帰り道、マキが俺にきいてくる。
「ど、どうするんですか? あんなことを言って」
「俺に考えがある。全部の責任をカグヤに押し付ければいいんだ!」
「え……!? それはいいアイデアですね……!」
「そうだろう? あいつはもう追放したからな、ちょうどいい。あいつにすべてをなすりつけてやろう。毒の矢も、あいつが俺への腹いせでやったことにするんだ……!」
「でも……そんなに上手くいくでしょうか……? 心配です」
「大丈夫だ! 俺の天才的アイデアに間違いはない!」
俺はさっそく、カグヤの行方を追った。
あいつに責任をなすりつければ、目障りなあいつを消すこともできて一石二鳥だ!
◆
無謀にも、カグヤに責任を押し付ける強硬手段に出たブキラ。
だが、そんなとってつけたような言い訳がうまく機能するはずもなかった。
自分のミスをごまかそうとして、余計にドツボにはまっていくブキラなのであった――。
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