第3話 モンスター襲来【side:ブキラ】
俺の名はブキラ=ボウクエット。
将来有望な武器職人ギルドの新ギルド長だ。
若くして職人となった俺は、コツコツと前ギルド長に媚びを売り続けた。
おかげで、俺はボーン=クラーセコ前ギルド長に取り入り、養子として後を継がせてもらえることになった。
「ふっふっふ……俺の野望もようやく……!」
邪魔だったボーンの息子、カグヤを追放することにも成功した!
あいつはなよなよしていて、目障りだったからなぁ。
才能もないくせにギルド長の息子というだけで居座りやがって、鬱陶しいヤツだったぜ。
今日は俺がギルド長になって、初めての出勤日だ。
義父であるボーンさんは今日から隠居して、晴れてギルドは俺のものとなる。
それだというのに――。
「ブキラ新ギルド長! 大変です!!!!」
「なんだ……!? 朝からうるせえなぁ!」
職人の一人が大慌てで俺の元へやってくる。
確かこいつはトリマーとかいう名前の男だったな。
男の名前には興味がないからつい忘れそうになる。
「それが……! 街に巨大なモンスターが襲来したらしいです……!」
「はぁ……!? モンスターだと!? そんなの冒険者にでも任せておけばいいだろう。なんで俺にそんな話をするんだ? お前はバカなのか?」
武器職人はあくまで武器を作る仕事だ。
モンスターと直接対峙することはない。
「それが! 今は優秀な冒険者が出払っていて……! 今兵士団が向かっているのですが、状況は厳しいようです」
「なんだと……!? じゃあ負けそうなのか!?」
「ええ、ですから逃げましょう! このままじゃ街ごと壊滅です!」
「はぁ!? 冗談じゃねえ! せっかくこうやって俺様のギルドを手に入れたっていうのに、なんでそれを捨てて逃げなきゃならねえ!」
ここで逃げてしまったら、兵士団が負けて、その後どうなる?
街が壊滅すれば、このギルドも破壊されてしまう。
そんなこと、許せるわけがない……!
っち……なんで俺はこうもツイてねえんだ?
「じゃ、じゃあどうなさるのです!? あ、そうだ! うちのギルドから武器を兵士団に支給しましょう! みんなで力を合わせれば、なんとかなるかもしれません!」
「はぁ!? お前はホント、底なしのバカだな!」
「えぇ……!?」
「なんで俺様が貴重な武器を無能な兵士団に寄付しなきゃならねえんだ!」
「で、でも……他にどうしろと……!?」
「ふん、戦える奴がいないなら……俺が出る……!」
「え……!? ブキラギルド長が……!?」
「ああ、俺を誰だと思っている……?」
俺は歴代でも最高クラスに才能のある武器職人だ。
なにせ俺の作った武器は神話の英雄級の性能を持つ。
まあ、その分高級だから、一部の優秀な冒険者じゃないと買えないがな。
今はその冒険者たちが街にいないというが、それなら俺が戦えばいいだけの話だ。
俺の武器を俺がどう使おうと、俺の勝手なのだからな。
「で、でも……ギルド長は戦えるのですか……!?」
「はぁ? 俺を馬鹿にしてるのか? 俺の作った武器なんだから俺が一番上手く使えるに決まってるだろ? ボケ」
「す、すみません……! で、ですよね……!」
「いいから俺に任せておけ。俺のギルドは俺が守るんだからな」
ギルドを継いだ初日にモンスターに破壊されるだなんて、冗談じゃない。
それならどんな手を使ってでも俺がなんとかしてやるさ。
今までに戦闘経験はまったくないが、まあ大丈夫だろう。
俺の武器は最高の性能だから、誰が使ってもそれなりに強いはずだ。
そもそも冒険者のようなバカでも使えるんだから、職人の俺に扱えないわけがないのだ!
「がっはっは! 勝ったな! この街は俺が守る!」
俺は自分の最高傑作である武器を手に、ギルドを飛び出した。
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《炎魔剣――オートクレール》
制作者 ブキラ
耐久 700/700
攻撃力 800
属性 炎
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◇
逃げ惑う住人をかき分けて、俺はなんとか戦場へとたどり着く。
そこではすでに多くの兵士たちが戦っていた。
「うおおおおおおお! 邪悪なモンスターめ! 死ね!」
「この街は俺たち兵士団が守る!」
「英雄ユシアがいなくても、俺たちで戦えるところを見せてやるんだ!」
みな粋がって奮闘しているが、状況は悪い。
相手は巨大な蛇のモンスターだった。
やはり街の兵士団程度では、役不足なようだ。
だが、俺が来たからにはもう安心だ。
「お前たち、あとは俺に任せろ!」
俺はさっそうと大蛇の前に飛び出した。
「あ、あんたは……!? 武器職人のブキラ!?」
「このモンスターは俺が倒す!」
「そ、そんな! 無理だ! 素人のあんたじゃ敵いやしない!」
「うるせえ! この武器を見ろ!」
「そ、それは! 炎魔剣――オートクレール!? だが……しかし……」
制止する兵士たちの声を無視して、俺はモンスターに立ち向かう。
「うおおおおおおお! 死ねええええええ!」
――ズバ!
――スカ!
しかし、俺の攻撃は簡単によけられてしまった。
「ギュオオオオオオオオオオ!!!!」
大蛇の口から、猛毒が吐き出され、俺の武器に降りかかる。
「うわぁ……!?」
炎魔剣を覆う炎が、空中に霧散した。
「なに……!? 俺の炎魔剣――オートクレールが!?」
「だから言っただろバカ!」
大蛇は俺の攻撃に怒ったようで、狙いをこちらに定めてきた。
「ギュオオオオオオオオオオ!!!!」
「うわあああああ! くるな! くるな! くるなああ!」
俺は恐怖のあまり軽く失禁していた。
くそ、俺の完璧な計画が……!
まさか本物のモンスターがここまで恐ろしい存在だなんて、思ってもみなかった。
「これだから素人は……おい使えねえ奴はさっさと逃げろ!」
「っち……!」
くそ、ゴミ兵士のくせに俺を使えない奴呼ばわりしやがって。
だが、もはや武器を失った俺にはなにもできることはない。
「くそおおおお! 覚えていやがれ!」
「なんだったんだアイツ……」
俺は恥辱にまみれてその場を逃げ出した。
やはり武器職人の俺が戦うべきではなかったのだ。
くそ、それもこれも、兵士どもが無能なせいだ。
「許せん……! 許せん……! このまま俺のギルドまで無くなったらどうしてくれるんだ!」
あとでたっぷり損害賠償を請求したいところだぜ!
◇
【side:カグヤ】
僕はアイリアさんの手を引いて、街の中を逃げる。
強大なモンスターの襲来に、街はてんやわんやだ。
ただの家具職人である僕には、逃げることしかできない。
「アイリアさん、こっちです!」
「カグヤくん……! 頼もしいです!」
しばらく街の中を逃げ続けていると、ふと見覚えのある人物を見つけた。
僕を実家から、職場から追放したあの憎きブキラ=ボウクエットだった。
ブキラは地面に座り込んで、なにやらぶつぶつとつぶやいている。
服も汚れ、身体に傷も負っている。
どうしたんだろうか……?
嫌いな相手だけど、わけありなようだし、気になってしまう。
「おいブキラ……! なにがあったんだ……!?」
「ああ……なんだカグヤか……。もう終わりだよ……」
「え……?」
「俺のギルドも、お前の実家も……全部破壊されちまう。終わりだ! みんな終わりだ!」
「ど、どういうことなんだ……!?」
「俺の最強の剣でもあのモンスターには敵わなかった……」
僕はブキラの言っていることが半分もわからなかった。
彼は目もうつろで、錯乱しているようだったから、どこまで本当かわからないけど……。
もしかしてブキラは自分でモンスターと戦いに行ったのか……!?
だとしたら、無謀すぎる……。
ブキラはすべてをあきらめたような口調で続けた。
「それに、兵士団たちも時間の問題で全滅するだろうよ……。っち……俺の夢も短い間だけだった……」
「兵士団が全滅……!? 冒険者たちは何をしているんだ……!」
あの最強ともうたわれる兵士団が全滅の危機に瀕するほどの強敵だなんて……。
僕の実家である武器職人ギルド【神の
いつも父さんは有事の際は兵士団に武器を貸出していたからね。そこだけは今も尊敬できる部分だ。
ブキラの話をきいて、僕は事の重大さを理解する。
もうこの街をモンスターから救う方法は残されていないのか……!?
「くそ! 街が破壊されたら……母さんの墓まで無くなってしまう……!」
僕はそれだけが心残りだった。
まあもともと追放された身だから、墓参りすらいけないかもだけどさ。
「どうしましょう……街が……お店が……!」
アイリアさんは家具屋【精霊の樹木】の方をちらちらと確認し、名残惜しそうだ。
そりゃあそうだよね、せっかく後を継いだばかりの、大事な家具職人ギルドなんだ……。
このまま逃げたら、きっとお店も破壊されてしまう。
でも、命あっての物種だ。
家具屋はまた再建すればいい。
だけど――。
「アイリアさん……! 僕に任せてください!」
「え!? カグヤくん……!?」
僕はアイリアさんの悲しむ顔なんて見たくない……!
それに、母さんの墓だって。
この街を守るのは、僕だ……!
「で、でもカグヤくん……どうやって……!?」
「【精霊の樹木】に戻りましょう! あのタンスを使うんです!」
「あ、あのタンスですか……!?」
そう、僕が先ほど初めて作ったタンスは、なぜか異常に高い攻撃力をもっていた。
もしかしたら、あれを使えばなんとかなるかもしれない。
「カグヤくん! 危険です! いくらあのタンスでも……!」
「大丈夫です! なんとかして見せます!」
僕も戦いは素人だ。
ただタンスをもっていっても、ブキラの二の舞になるだけだろう。
だから僕は、新たに策を考えた。
「時間が間に合うといいけど……!」
僕は単身、急いで【精霊の樹木】の向かう。
アイリアさんは街から避難する人たちと一緒に逃げてもらった。
ブキラは逃げる気力すら失っていたようなので、あの場に放置。
まあ、ブキラの面倒まで見てやるほどのお人よしではないからね。
◇
「ようし……! できた……!」
【精霊の樹木】に着いた僕は、余りの素材で即席の家具を作った。
時間はかけられないから、見た目や家具としての性能はイマイチだ。
だけど、これは戦いに使うものだから問題はない。
============
《机シールド》
制作者 カグヤ
耐久値 30/30
防御力 500
============
「よし……! これとタンスがあれば……! この街を救える!」
僕はさっそく机シールドとタンスを持って、モンスターが暴れている地点へ向かった。
はたから見ればとても戦いにいく恰好じゃないけど、これが僕のスタイルだ。
◇
「ギュオオオオオオオオオオ!!!!」
戦場に着いたころには、すでにほとんどの兵士が全滅していた。
そして暴れまわる大蛇が、街を次々と壊している。
「こ、これは……!」
どうやら兵士たちの装備は普段通りのものらしい。
つまり、ブキラは兵士団に武器を貸さなかったってことか……!?
だとしたらなんて愚かなんだ……。
それよりも、はやくこの大蛇を殺して兵士たちを救わないと!
「あ、あんたは……?」
倒れていた兵士の一人が、僕を見つけて声をかけた。
「僕は家具職人です。大蛇を倒しに来ました!」
「そ、その恰好でか……?」
兵士は驚き半分、呆れ半分といった声でそう言った。
まあ、タンスと机を抱えた家具屋になにができるんだって思うよね。
「大丈夫、僕に任せてください!」
まず、僕は机を盾にして大蛇へと突進して行った。
「うおおおおおおおおおおおおおおお!!!!」
「ば、馬鹿な……!? 君、なにをやってるんだ!」
兵士さんは心配の声を上げたけど、なにも問題はない。
「キュオ……!」
大蛇が僕に気づいて、こちらへ向かってくる。
しかし、僕の最強の机シールドがその攻撃を弾く!
――キン!
「なに……!? 机で攻撃を弾いただと……!?」
「うおおおおおおおお! これで終わりだあああああああああ!!!!」
そして十分に距離を詰めたあと、僕はタンスの角で大蛇に一撃!!!!
――ガン!
――ガン!
――ガン!
攻撃力9999のタンスの角で3連打!!!!
「キュオオオオオオオオオオオン!!!?」
味わったことのない衝撃に、大蛇は一瞬で地面に沈んだ。
――ズシャアアア。
「ふぅ……やったぁ!!!!」
「ほ、本当にタンスで倒しちまいやがった……恐ろしいやつだぜ……」
そう言い残して、兵士さんは気を失った。
「へ、兵士さん!? よかった、まだ息はあるみたいだ……!」
とりあえず、僕はその兵士さんをタンスの上に載せて、引きずっていくことにした。
救える命は一人でも多く救いたいからね。
兵士さんは意識を失ったままだったけど、なんとか命に別状はないようだ。
◇
「すごいですカグヤくん! 本当にあの大蛇を倒すなんて!」
「いや、たまたまタンスの攻撃力が高かっただけですよ」
「ありがとうございます! ギルドを……街を救ってくれて……!」
避難所でアイリアさんと再会して、僕はたくさん褒められた。
とにかく、なにもかもが無事で本当によかった。
一か八かの危険な賭けだったけど、うまくいってよかったよ。
「カグヤくんの家具スキルの才能はすごいです!」
「あ、ありがとうございます。アイリアさん」
「これからも、うちでその能力を発揮していってくださいね!」
「はい! 改めて、よろしくお願いします!」
これからも忙しい毎日になりそうだ――!
アイリアさんとの再会を喜んだのもつかの間。
突然、避難所に得も言えぬ緊張感が張り詰めた。
「けが人だああああ! すごい数のけが人だ……!」
「どいてくれ! けが人が通るぞ!」
「誰か! 医者はいないのか……!?」
おびただしい数のけが人が、避難所に運ばれてきたのである――。
――つづく。
==================
【あとがき】
読んでくださり本当にありがとうございます!
読者の皆様に、お願いがあります。
少しでも、「面白そう!」「続きがきになる!」「期待できそう!」
と思っていただけましたら、
ブックマークや、広告の下にある★星を入れていただけますと嬉しいです!
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