第9話 ブキラ再び【side:ブキラ】


 あれから俺は独房に78時間拘留されていた。

 だがそののちに、ボーンさんが金を払ってくれてようやく出ることができた。

 今回は罰金と厳重注意ということで、それほど大きな罪には問われないで済んだ。


 モンスター襲来のせいで復興などで街が忙しく、それどころではないというのも幸いした。

 俺以外にも、火事場泥棒などで警官は忙しい。

 ただでさえどさくさに紛れて脱獄した凶悪犯なんかもいるくらいだ。

 まあ、俺の運がいいということだな!


「ふぅ……危うく死刑になるかと思ったぜ……。ありがとうございます、ボーンさん!」

「まったく、私の面子も考えてくれよ……」

「え……?」

「お前はとんだ期待外れだったよ……」

「ちょ、ちょっと待ってください! どういうことですか!?」


 俺は言われている意味がわからない。

 せっかくボーンさんは俺を出してくれたのに、なんで説教が始まるんだ?


「無能な息子を追い出したのに、お前まで無能だとはな。まったく、子ガチャ二連続で外れかよ……」

「そ、そんな……! 俺は一回ミスしただけじゃないですか!」

「馬鹿め! お前は私の言うことをきかないからこうなったんだ! あれほど回復の矢を作るのは禁じていただろう! それはお前の【毒属性付与】のスキルがあるからなんだぞ!」

「お、俺はただ知らなくて……」

「言い訳はいい。行動で示せ。次はないからな……! なんとかギルドを立て直せ、そうじゃないと、お前もあのカグヤと同じだからな」

「っく……は、はい……」


 俺は実の親にすら怒られたことないのに、なんだこのオッサン。

 一度ミスしただけでここまで怒られるなんて、理不尽すぎる。

 もとはと言えばまだ未熟な俺にギルドをまかせっきりにしたボーンが悪いんだ。


「じゃあ、あとはギルドを任せたからな。私は今他の事業に着手していて忙しいんだ。なんのためにカグヤを追放してお前を養子にしたと思っている!? あまり私を失望させるなよ?」

「わ、わかりました……。がんばります……」

「ふん。薄汚い孤児め……。私が拾ってやったことをゆめゆめ忘れるな?」


 ボーンは俺に説教を垂れたあと、馬車でどこかへ出かけて行った。

 あいつは今他の街にも武器職人ギルドを展開したり、娼館を経営したりしているらしい。

 俺はその事業のための駒にすぎないというわけか……?


「くそ……俺にもようやく家族が出来たと思ったのに……!」


 屈辱的な気分に襲われる。

 社会的にも犯人扱いされ、義父からも失望され、俺は惨めだ。


「こうなったら、なんとかギルドを立て直して成功してやる!」


 俺はいつだって自力で成り上がってきたのだ。

 そのためには手段も択ばなかった。

 だからこそ、身寄りもなく貧乏だった俺でも、ここまでこれたのだ。


「よし、武器を作るぞ! お前たち!」

「はい! ギルド長!」


 トリマーとマキに命令して、俺はたくさん武器を制作する。

 とにかく今は利益をあげなければならない。

 モンスター襲来のせいで、武器を火事場泥棒にとられたりもしたから、在庫を補充するんだ。

 俺は無我夢中で武器を作り続けた。


「よし……! いい感じにできたんじゃないか……?」

「さすがはギルド長です!」


 工房には、かなりの種類の武器が完成していた。

 これだけあれば、バカ売れ間違いなしだ!

 そう思っていたのに――。


「な、なぜだ……!?」


 質のいい武器を並べているはずなのに、一向に売れる気配がない。

 汎用性の高い、安物のどうのつるぎなんかはそれなりに売れるのだが……。

 俺の作った最強のユニーク武器の数々が客から無視されているのだ。


「おい! この武器を買わないか……!?」


 しびれをきらした俺は、一人の客にそうやって詰め寄る。


「うーん、高すぎるよこれは……。今はモンスター襲来のせいもあって、金がないんだ」

「なんだと……!? モンスターと戦うためにもこれは必要だろう!?」

「それよりも防具に使いたいかな……。ほら、これなんかいいだろう?」


 その客は自分の装備している防具を俺に見せてきた。

 なんだぁ? コイツ……?

 男が持っていた盾は、とても防具と呼べるようなものではなかった。


「これ……お鍋のふたじゃないか! ふざけるな! こんなガラクタが俺の武器よりもいいだと!?」

「ああそうだよ。こう見えて、かなりいい防具なんだ。みんな死にたくないからね。今じゃみんなこの盾を持っているんだ。街で流行ってるのを知らないのかい? 安くて質がいいんだ」

「はぁ……? 何言って……」


 よく見ると、街行く冒険者らしき奴らがみんなその盾を持っていた。

 どういうことなんだ……?

 もしかしてそいつのせいで、俺の武器が売れないのか!?

 馬鹿め、なんで武器じゃなく防具に金を使う!

 攻撃は最大の防御という言葉を知らないのかこいつらは!


「おい貴様! それをどこで買ったんだ……!?」


 俺の営業を邪魔するやつは、俺がぶちのめしてやる。

 せっかく釈放されてこれから真面目にやろうってときに、出鼻をくじかれた気分だ。


「これかい? これは家具屋で買ったんだよ。【精霊の樹木】さ」

「家具屋だとぅ……!?」


 畜生ふざけるな!

 なんで家具屋の作った盾なんていうふざけたものに、俺の最強の武器が負けなきゃいけない!?


「そこのカグヤっていう職人が優秀でね」

「はぁ……!? カグヤだと……!?」


 あの野郎、どこまでも俺を邪魔しやがって……!


「うるさい! お前は客じゃない! 出ていけ!」

「な、なんだ急に!? こっちから願いさげだよ!」


 くそ、このままじゃまたボーンさんに失望されてしまう。

 そうなったら、俺はカグヤと同じように追放されてしまうんだ。

 二度も親に捨てられるなんて、そんなの耐えられない!

 なにか手を打たないと!

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