第8話 お鍋のふたと机シールド
ブキラが兵士団に連行された翌日、あらためて兵士長が僕のもとへ謝罪に来てくれた。
「いろいろとすまなかったなカグヤ。君を疑ったりなんかして。それどころか、君のおかげで悪を見逃さずにすんだ。本当に感謝している」
「いえいえ、いいんですよ。それよりも、お忙しいところお疲れ様です」
「はっはっは君は本当に人がいいな。ブキラとは大違いだ。ブキラは今拘留していて、あとは裁判で正式に裁かれるのを待つのみだ。安心してくれ」
「それはよかったです」
別にブキラのことをそれほど恨んでいるわけではないけれど、みんなに迷惑をかけたのは事実だしね。
それに僕はもうあの家の子供でもないし、ギルドも追放されているから擁護するいわれもない。
ふと、兵士長さんの装備に目がとまる。
以前はもっと高級な装備をしていたはずなのに、今日はボロボロの装備だ。
「あの、兵士長さん。その装備は……?」
「ああ、これか。先のモンスター襲来のせいでな。経費削減なんだ。装備は壊れちまったし、ありあわせの古い装備を使うしかないのさ。人員も大幅に補充しなきゃならないから、いろいろと金が回らなくてな」
「そうなんですか……それは大変ですね」
「まあそのせいでブキラにまんまと粗悪品を売りつけられちまったわけだがな。やっぱり安いものは疑ってかからないとな」
「あの……僕になにかできることがあれば手助けさせてください!」
「君が……? でも、君は家具職人だろ? いくら元武器職人見習いだといっても……」
「大丈夫です! きっと役に立てます!」
僕は少しの時間、兵士長さんに待っていてもらうことにした。
兵士長さんの持つ盾はボロボロで、見ていられなかったからだ。
このままじゃ、もし次にまたモンスターと遭遇したら、すぐに殺されてしまう。
以前のモンスター戦で、僕は机をシールドにして戦った。
僕の家具はいろいろな効果を付与できるから、兵士団用の盾を作ることもきっとできるはずだ。
それからしばらく手を動かして――。
「よし……! 完成だ!」
「こ、これは……!?」
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《お鍋のふた》
制作者 カグヤ
耐久値 250/250
防御力 250
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「お、お鍋のふたじゃないか……!?」
「まあ、一度使ってみてください……!」
兵士長さんはお鍋のふたシールドを装備して、ぶんぶん素振りしはじめた。
そしてお付きの部下の兵士と、剣と盾で打ち合いをしたりして感触を確かめる。
「おお……! これは確かに! 見た目に反してすごいいい装備だ!」
「ありがとうございます!」
「普通の盾より軽くて、小回りもきく。これはすごい! もっと作れたりするのか……?」
「ええ。これなら、街の廃材から作れます」
「それはいい! ぜひ兵士団から大量に発注させてくれ! 盾を新調することはあきらめていたが、これならなんとかなりそうだ……!」
「もちろんです!」
よかった、なんとか兵士団の装備を新調できそうだね。
ほとんど廃材と、僕の労働だけで作れてしまうから、これならお金もかからない。
「それと、こんなものもあるんですけど……」
「これは……!?」
僕は机シールドも用意しておいた。
机シールドはお鍋のふたと違って、かなり大きめだから、複数人で使ったりもできる。
要は突進用の装備だ。
前面に針をつけることで、攻撃にも使えるだろう。
「これはすごい! これさえあれば、かなりの大型モンスターとも戦える! ぜひこれももらおう!」
「ありがとうございます!」
「いやあまさか家具にこんな使い道があったとは……君は天才だなぁ……」
「いえいえ……」
兵士長さんは契約書にサインをして、満足そうな顔で帰って行った。
「よかったですねカグヤくん! 大きな契約をとりつけました!」
アイリアさんがまた僕をほめてくれる。
「まあ、かなり安めに譲ったので、儲けはそれほどですが……」
「そんなことないですよ! 兵士団みなさんの装備ともなると、かなりの量です。それに、今後もひいきにしてもらえれば、かなりの額になりますよ?」
「そうですかねぇ」
「それに、兵士団はもともと武器屋や防具屋をつかってましたし。うちは家具屋です。だから新規開拓ですよこれは! カグヤくんのおかげです!」
「あ、ありがとうございます」
アイリアさんも喜んでくれて、僕も満足だ。
やっぱり人のためになるのが一番幸せだなぁ。
武器屋で見習いをしていたころは、雑用ばかりでやりがいもなかった。
今はこうして喜んでくれる人がいて、本当に恵まれている。
これからも沢山、すごい家具を作っていこうと思う僕だった――。
◆
家具の意外な使いみちを利用して、活躍するカグヤ。
しかし武器を作ることしかできないブキラは、この状況に苦悩することになる――。
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