第10話 調査団
あれからまたしばらくが経ち、街のほうも兵士団も復興を遂げ、僕らは元の生活に戻りつつあった。
家具職人ギルドへ、いつものように出勤すると、みんななにやら噂話をしていた。
「どうしたんですか? アイリアさん」
「あ、カグヤくん。それが、英雄ユシアが帰還したそうなんです」
「え……!? あの英雄ユシアが!?」
英雄ユシア=エルムーンというのは、この街を拠点としている偉大な冒険者の名前だ。
この国では知らないものはいないというほどの実力者で、勇者や英雄と呼ばれている。
そんな彼女は、普段は世界中を冒険していたりする。
冒険者ギルドのクエストを受けていたりもして、街にいないことも多いのだ。
先のモンスター襲来のときに、彼女がいてくれさえすれば、もっと被害を抑えられたかもしれない。
今回の遠征は、有能な冒険者を多数引き連れてとのことだったから、そのせいで街にろくな戦力が残っていなかったんだ。
まあ普段なら兵士団がなんとかするんだけど、さすがにあの大蛇は規格外すぎたよね。
「ユシアさんが戻ってくれば、街も安心ですね」
「そうですね。それで、そのユシアさんを筆頭に、兵士団と冒険者ギルドが組んで調査団を派遣するそうなんです」
「調査団ですか……」
「どうやら、あのモンスターは少し離れたところからやって来ていたみたいなんですよね。調査団はその原因を突き止めるべく、ダンジョンを目指すそうです」
「へぇ、まあ他にもあんなモンスターが現れたら困りますもんね」
「そうです。ダンジョンコアの暴走ということも考えられますしね」
ダンジョンコアの暴走か……。
もし本当にそうだとしたら、恐ろしい話だ。
本来この街の付近に、あんな強力なモンスターは現れないはずなんだ。
だから、調査をしてなにかわかればいいんだけど……。
そんな話をしていると――。
突然、ギルドの中に豪奢な鎧を着こんだ女性が入ってきた。
「頼もう! この家具職人ギルドに、腕利きの職人がいると聞いて来た!」
「え……!? 英雄ユシア……!?」
噂をすればなんとやら。
なんと来客は、あの帰って来たという英雄ユシアだった。
こんなに近くでお目にかかるのは初めてだ。
女性らしい体つきでありつつ、凛々しく決意に満ちた目が美しい女性だ。
白髪に青い目、白銀の鎧が美しい。
「その……ここは家具職人ギルドですけど……? 大丈夫ですか?」
「ああ、理解している。だが、街で流行っている盾はこのギルドのものだというじゃないか」
「ええ、まあ。僕が作りました」
「なに……!? 君のようなかわいらしい少年が!? それはすごい才能だ」
「か、かわいらしいだなんて……。僕よりユシアさんの方がかわいいですよ」
僕の何気ない一言で、ユシアさんは顔を真っ赤にして取り乱し始めた。
なぜだか後ろではアイリアさんが頬を膨らませている。
褒められたから、素直にこっちも褒めただけなんだけどな……。
「はぁ……!? お、お前……! 冗談はよせ。私なんかがかわいいわけないだろう。そんなことは初めて言われたぞ……」
「えぇ……かわいいですよ」
「っく……それ以上は私の心臓が持たない……! そ、それよりもだ。今日は君に依頼をしに来た」
「依頼ですか」
「ああ、そうだ。調査団の件は知っているか?」
「さっき、ちょうどその話をしていました」
「そうか、なら話は早い。君にはなにか調査に役立つようなものを作ってもらいたいんだ。なんでもいい。君に任せるよ」
「調査に役立つもの……はい、わかりました! 考えてみます!」
「頼もしいな。君のすごい噂は兵士長からも聴いているよ。楽しみにしている」
ユシアさんはそれだけ言って、去って行った。
あの英雄から依頼を受けるなんて、こんなこともあるんだな。
でも、調査に必要になりそうな家具となると、難しいな……。
「カグヤくん? ユシアさんにデレデレしてませんでしたか……!?」
「ええ!? アイリアさん、誤解です! してませんよデレデレなんか!」
仕事中に余計なことを考えたせいで、アイリアさんは怒ったのかな?
よし、家具作りに集中しよう……!
それから、数時間が経って――。
「できた……!」
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《無限収納ゴミ箱》
制作者 カグヤ
耐久値 200/200
効果 無限にアイテムを収納できる
軽く、持ち運びも簡単
容量 無限/無限
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「これなら遠征に役に立つんじゃないかな!」
「ゴミ箱をアイテムボックスにしたんですね! すごい発想ですカグヤくん! さすがです!」
僕のスキルはあくまで家具を作ることだ。
だからなにかしらの家具に能力を付与することになる。
我ながら、ゴミ箱を使ったのはよかったと思う。
タンスとかを収納アイテムにしてもいいけど、重すぎるからね。
「それにしても……本当に無限収納アイテムが作れちゃった……」
無限アイテムボックスなんて、神話の中だけの話だと思ってた。
だけど、発想次第でそんなことまでできてしまうなんて、僕のスキルはいったいなんなんだろう?
「カグヤくんの家具に不可能はないですね!」
「自分でも怖くなってきましたよ……」
さっそく、僕は調査団にそれを持っていくことにした。
兵士長と、ユシアさんが僕を快く出迎えてくれた。
「カグヤくん! もうできたのか!」
「はい、ユシアさん。さっそく使ってみてください」
「こ、これは……! 無限収納ボックス!? こんなアイテム、世界中を冒険してきたけど見たことがない……! 君は本当に何者なんだ……!?」
「ぼ、僕もわからないです……」
ユシアさんは目を丸くして驚いていた。
でも、喜んでもらえてよかったね。
「カグヤ、これはかなり役に立つぞ。私からも礼を言う」
「はい、兵士長さん。お気をつけて!」
僕は彼らが無事に調査を終え、かえってくるのを祈った。
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