第11話 ブキラ空回り【side:ブキラ】


 何故だかわからないがカグヤの野郎が家具職人として武器や防具を作っているそうだ。

 そのことはなによりもこの俺をイラつかせた。

 このままだと俺はボーンさんに失望されてしまう。

 なんとかしなければと思っていた矢先、おあつらえ向きのニュースが飛び込んできた。


「ギルド長! ききましたか……!?」

「はぁ? なにがだ!」


 トリマーが朝から俺に話しかけてきてうっとおしい。


「あの勇者ユシアが帰還したそうです! それで、調査団を結成するとか……」

「ほう……それはいい情報だ」


 ここで調査団に協力をすれば、俺の株も上がるというものだ。

 あの英雄ユシアに武器を提供できれば、俺も一躍時の人となるだろう。

 モンスター襲来のときに武器を貸し出さなかったことを、ボーンさんに責められたからな。

 同じ轍は二度と踏まない。


「ようし、俺は今から強武器を作りまくるぞ! これを調査団に売りつければ、大儲けできて俺の実績にもなる! 一石二鳥だ!」

「そうですね、ギルド長! お手伝いします!」


 それから俺は一日中工房に籠って、武器を作り続けた。

 武器職人として無類の天才である俺にかかれば、一夜にして大量の武器を制作するのはたやすいことだ。


「英雄が持つにふさわしい武器だからな。それなりに尊大じゃないとダメだろやっぱ」


 俺はとにかく大きくて豪華な武器を揃えた。

 大きな斧や、大きな剣だ。

 調査団の連中にも大きな武器をくれてやろう。

 モンスター襲来のときはケチなことをしたせいで怒られたからな。

 今度は大盤振る舞いをするブキラさんなのだった!


「はっはっは! これで調査団に感謝されること間違いなしだ!」

「さすがギルド長です!」


 だが、実際に調査団に武器を持って行ってプレゼンすると、とんでもないことになった。

 俺は武器をもって、英雄ユシアの元を訪れた。

 しかし――。


「残念だが、これらの武器は今回は使えないよ」

「なぜだ……!?」


 英雄ユシアから残酷な真実を告げられ、困惑する俺。

 美人で高潔な女からこうも否定されるなんて、屈辱的だ。

 俺の武器で屈服させてやりたいぜ。


「どれも非常に質の高い武器だが、遠征にもっていくには大きすぎるし重すぎる。もう少し小ぶりでないと……。それになんだこれは? 美術館に置くオブジェじゃないんだ、もっと実用的でないと……」

「う……」

「それに、私はともかくとしてだ。調査団には指定の同じ規格の武器を用意してあるんだ。バラバラの武器だと集団戦では統率がとれないし、不便だからな。こんな大げさなユニーク武器は、今回必要がないんだよ」


 確かに、俺は少し張り切ってデザインを凝りすぎてしまった感じはある。

 とにかく大きく、豪奢に作ったつもりだ。

 だがそれは、英雄ユシアに喜んでもらおうとした結果なのに……!

 それをこんなふうに頭ごなしに否定されるなんて、俺は許せない!


「てめえ……! 俺の武器を愚弄するのか……!」

「いや、すまない。怒らせるつもりはなかったんだ。そうだな……このあたりの武器ならなんとか採用できそうだ」

「ほ、本当か……!」


 英雄ユシアはその胸と同じくらい大きな懐で、俺に優しく接してくれた。

 俺は危うく、この女に惚れそうになるところだった。

 へっへっへ……。

 ユシアが選んだのは、いくつかの中くらいのサイズの武器だ。

 それは今回作ったものじゃなく、売れ残った予備の武器なのだが、まあいいさ。

 英雄ユシアに使ってもらえるのなら、なんでもいい。


「ああ、この剣とナイフを使わせてもらおう」

「ありがとう!」


 ユシアは俺の武器を、なにやら箱にしまおうとする。

 見たこともない収納アイテムだ。


「あの……それは……?」

「ああ、これは無限収納ゴミ箱だ。無限に入るアイテムボックスなんだ」

「なにぃ……!? 俺の武器をよりにもよってゴミ箱なんかに入れるだとぉ……!?」


 俺はそんなこと、絶対に許せない。

 俺の作った高潔なる武器を、ゴミ箱みたいな薄汚いもんに入れるなんて。

 プライドが傷ついて死にそうになる。

 そんなの、死んだほうがましだ。

 だって、ゴミ箱に入れるってことは、それすなわち俺の武器がゴミだってことだろうが……!


「ま、待ってくれ。これはただのゴミ箱じゃないんだ! これは天才家具職人のカグヤくんが作ってくれたレジェンドアイテムなんだぞ……!」

「はぁあああああ!? かかかかかかかっかっかっか、カグヤだとおぉおおおおお!!?」

「ど、どうしたんだいきなり……!?」

「今すぐ俺の武器を返せこのゴミ女!」

「な!? 私をゴミ女だと……!?」

「そうだ! カグヤなんて名前、二度と出すんじゃない!」


 俺は憤慨してその場を後にした。

 英雄ユシアも俺のことをにらみつけていたが、知ったことではない。

 俺の武器をゴミ扱いされ、しかもカグヤなんかの作ったゴミ箱に入れるだなんて……。

 考えただけでも反吐がでる。

 ギルドに帰った俺は、マキに怒られてしまった。


「ブキラさん! なにを考えているんですか! これじゃあ調査団に武器を売って名声を得るどころか、真逆じゃないですか! もう英雄ユシアと取引できないですよ……!?」

「っく……俺としたことが……ついかっとなって……」

「もう……しょうがないですねぇ……」

「畜生! なんで俺の武器が採用されずに、カグヤなんかのゴミ箱が重宝されるんだよ!」


 俺はギルド内のゴミ箱を、腹いせに全部蹴り飛ばした。

 それでも腹の虫がおさまらない。

 この感情はなんなのだろう……?

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