第14話 お嬢様の家具


 調査団が街を旅立って、一息ついたところ。

 またいつも通り普通に家具を作る日常がやってきた。

 これまで武器や防具を作って、家具職人としての範囲を超えていたからね。

 たまにはこうやって落ち着いて普通の家具を作るのもいいものだ。


「こんにちはー!」

「はーい!」


 ある日【精霊の樹木】を訪れたお客さんは、美しい女性だった。

 金髪のロールした髪に、豪奢なドレスを着こなしている。

 とても武器なんかとは縁遠く、家具を買いに来たんだとすぐにわかった。


「わたくし、クラリス=ラクラリスと申しますわ」

「えぇ……!? あのラクラリス家の……!?」

「まあ! ご存じですの……!?」


 ラクラリス家と言えば、この街で知らない人はいないくらいの大豪邸に住むお嬢様だ。

 貴族のお嬢さまが、直接家具を買いにくるようなことがあるなんてね……。

 しかもいくら有名家具ギルドの【精霊の樹木】といえども、こんな下町にわざわざ……。

 貴族の家とかだったら、家に伝説級の家具職人を呼んできてオーダーメイドで作らせているイメージだった。


「それはもちろん! それで、今日はどうされたんですか?」

「わたくしが自らこちらへ赴いたのには、もちろん理由がありますわ! このギルドに、腕のいい若手の新入り職人様がいらっしゃると聞いたのです! しかもそのお方は、美少年で、見たこともないような特殊な能力を持った家具をおつくりになられるとか……!」

「えぇ……!?」


 まさかお嬢様にまで僕のうわさが知れ渡っていたなんて……。

 兵士長さん、もしかして酒場とかでペラペラとしゃべってるんじゃないだろうか?

 でも、困ったな……。

 美少年だなんて言われたら、僕がその人ですとはいいだしにくい……。

 僕がそうやって口ごもっていると、代わりにアイリアさんが口を開いた。


「その人でしたら、この目の前にいるカグヤくんがそうです! 彼こそが、わがギルドの誇る天才家具職人ですよ!」

「まあ、あなたでしたの! 確かに、よく見るとかわいいお顔をされていますわね」


 そういってクラリスさんは僕の顔をまじまじと見た。

 こんなにきれいなお嬢様に、じろじろと見られて、かわいいだなんていわれると照れてしまう。

 むしろかわいいのはクラリスさんのほうなのに……。


「とにかく、私の部屋の家具を作りにきてほしいのです! どうも他の職人では、センスが悪くて気に入らないんですの!」

「わ、わかりましたけど……。本当に僕でいいんですか? 僕、そんなにセンスとかあるわけじゃないと思うんですけど……」

「いえ、あなたじゃないとだめなのですわ! あなたのような若くてカワイイ方にお願いしたいのです! ひげもじゃのむさ苦しい職人ではなくて」

「あぁ……」


 確かに、僕以外の家具職人というと、みんな筋肉隆々の中年男性が多い。

 家具を作るのは、力のいる仕事でもあるから、仕方のないことだ。

 それに、どうしても高名な職人となるとそれなりに歳のいった人になる。

 まあ、そんな彼らが彼女のような綺麗で若いお嬢様のセンスを満足させられるかは、たしかに微妙なところだ。


「わかりました! 僕がおひきうけします!」

「まあ! ではさっそく、馬車に乗ってわたくしの部屋に案内しますわ!」

「えぇ……!? 僕がクラリスさんの部屋にですか!?」

「あたりまえですわ! 実際に部屋を見てもらわないと、わかりませんもの」

「そ、そうですよね……」


 どうしよう、若い女性の部屋……しかも貴族のお嬢様の部屋に行くだなんて……。

 緊張してしまう……。

 僕はちらっとアイリアさんの表情を見た。

 アイリアさんは頬を膨らませてぷいとそっぽ向いた。


「あ、アイリアさん……! 誤解しないでくださいね……! 部屋に行っても、僕はなにもしませんから!」

「そうですよね! わかっていますよ! カグヤくんは女の子と部屋で二人きりになっても押し倒したりするほど度胸のある男の子じゃないですもんね? それはよーっくわかっています」

「えぇ……?」


 なんだろう、その言い方はなにかひっかかる……。

 なんで僕急にディスられてるんだ?

 まあ、そんなこんなで僕はクラリスさんと二人で馬車に乗り込んだ。

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