第13話 武器職人ギルドの崩壊【side:ブキラ】


「お、おかしい……」


 俺は握っていた武器制作用の工具を床に落とした。

 なぜだろうか、身体に力が入らない。


「ど、どうしたんですかブキラさん!」


 マキが駆け寄ってくるが、俺は力なく頷くことしかできない。


「フラフラじゃないですか!」

「ああ、最近うまく眠れないんだ……」

「えぇ……!?」


 もしかしたら、ベッドが変わったのがいけないのかもしれない。

 俺はもともとは別の家に住んでいたが、ギルド長になってからはこの【神の槌】に住み込んでいる。

 【神の槌】はあのカグヤの実家でもあり、奴が出て行った今、俺がやつの部屋に住んでいた。

 そしてもちろん、カグヤの使っていたベッドを使っていることになる。

 そういえば、このギルドの家具は全部あのクソカグヤが練習で作ったものだったな。

 素人の作った家具だから、質が悪いのかもしれない。


「あのクソ家具職人め……俺のベッドになにか細工でもしやがったのか……!?」


 それだけじゃなかった。

 俺のまわりで、その後もおかしなことが立て続けに起こりだしたのだ。


「はぁ……!?」


 ――ボキ!


 武器を作っていたある日のことだ。

 俺の手に持っていた制作用の工具が、根本からぽきっと折れてしまったのだ。


「さ、サビている……!?」


 おかしい、この工具は最近新しくしたばかりだというのに……!

 不思議に思って、工具棚をよく確認してみると、なんと工具棚ごとサビはじめていたのである。


「ど、どういうことだ……!?」


 それだけじゃない、このギルド中のありとあらゆる家具が、ボロボロになっているのに気付いた。


「おい! いったい誰のせいだ! 掃除やメンテナンスはどうなっている……!?」


 俺が職人たちにそう怒鳴り散らすも、誰も知らぬそぶりだ。

 怒った俺は、トリマーをにらみつける。


「おい! どういうことなんだ!」

「えぇ……。それが、ギルドの掃除やメンテナンスをすべてやっていたのは、カグヤなんです」

「なんだと……!? あのカグヤが……!?」


 そういえば、そういった雑用めいたことはすべてあのクソカグヤがやっていたっけな。

 まあ、武器を作る才能がないあいつにはお似合いのしごとだ。

 家具職人には家具のメンテナンスくらいしかできることなんてないからな。

 だが、それはそれとして。


「だからなんだというんだ! あいつはもういないんだ! ほかに誰も掃除をしていないのか……!?」


 俺はまた職人たちを見渡すが、誰も手を上げたりしない。

 おかしい……まさかこいつら、誰も掃除をしていないというのか……?

 掃除係とか、メンテナンス係はいないのか?


「その……カグヤがいなくなってから、ギルド長から特に掃除などの命令は出てませんので……」

「うるさい! お前らはバカなのか……!? いちいち俺がなんでも言わないとなにもできないのか!? このバカどもが! 気を利かせて自分たちでやりやがれ!」


 信じられなかった。

 普通、カグヤがいなくなった時点で誰かが代わりにやればいいだけの話だろ?

 もしくは、おかしいと思って俺に確認しにくるとかすればいいはずだ。


「ぎ、ギルド長は俺たちが勝手になにかすると怒るじゃないですか……!」

「はぁ……!? バカか……!? そう思うんだったら一言なにかいえばいいだろう……!?」

「じ、自分は一度ギルド長に確認しました!」


 職人の一人がそんなことを言う。

 バカな……。

 俺はそんな話、きいてなどいないぞ。

 もしきいていたのなら、この俺が忘れるはずはない。


「嘘をいうんじゃない! 言い訳をするな!」

「ほ、本当です! でもそのときギルド長は忙しいと怒鳴って、それっきり話を聞いてくれませんでした……!」

「なんだと……!?」


 まさか、俺のせいだというのか……?

 俺がこいつらの話をきかなかったからなのか……?

 いや、そんなことはないだろう。


「くそが……! こうなったら、カグヤのところに行って説明をさせるまでだ! あいつがなにかしたに違いない!」





 そう思って、カグヤのもとを訪れた俺だったが――。


「ぼ、僕はなにもしてないよ……!」

「はぁ……!? なんだと……!? じゃあせめてお前がなんとかしろ! 修理しやがれ!」

「そ、そんな無茶な……」

「いいからこい! このクソが……!」


 俺は無理やり、カグヤをギルドへ連行した。

 そして、俺のボロボロになった寝心地の悪いベッドを見せる。

 すると――。


「な、なんだこれ……!?」


 なんと、カグヤが俺のベッドに触ったとたん、まるで新品の家具のように変化したのだ!


「ど、どういうこと……!?」


 カグヤ本人も驚いている様子だった。


「やはりお前のせいだったか……!」

「ち、違うよ……!」

「うるさい! もういい、出ていけ!」

「えぇ……!? 自分で呼んでおいて……?」


 むしゃくしゃした俺は、カグヤを乱暴に追い出した。

 するとどうだろう、さっきまで新品同然に生まれ変わったと思っていたベッドが、今度は灰のように風化してしまったではないか……!


「ど、どういことなんだ……!?」


 まさか、この家の家具は全部、もともとカグヤのものだったからなのか……!?

 カグヤが持ち主でなくなると、こうなってしまうのだろうか……!?

 バカな……! そんなおかしな話!

 ただの才能のない家具職人のあいつに、そんな力が……?

 これじゃあまるで俺がこの家の家具に拒絶されているみたいじゃないか。

 ただの家具にそんな意思のようなものが宿っていてたまるか!


「くそ……! とにかくこの家の家具や工具は一度全部買い替えだ……!」


 出費がかさむが、このままでは仕事にならない。

 しかしどうしたものか、カグヤのところで家具を買うなんていう気にもなれない。

 だが業界最大手である【精霊の樹木】以外の家具は、どれも無駄に高かったり、質が悪かったりするのもじじつだ。

 だが、仕方がないか……。


「カグヤの顔なんか二度とみたくないね……!」


 俺はしぶしぶ、高級家具店で全部の家具を新調する羽目になるのだった。

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