ハナチルサト

　桜花が散り始め、千里花村（ちりはなむら）の鎮花祭の日が近づいてきた頃。
　村の疫病神を鎮めるため、人身御供『桜憑き』として選ばれた少女・未散（みちる）は、御神木である『神桜（カンザクラ）』に毎日祈りを捧げる。
　未散の侍従である神社の巫女・智枝（ともえ）も、彼女とともに過ごす穏やかな日々に幸福を感じていた。
　だが、桜憑きが神桜の下に納棺される年には、疫病神に取り憑かれた者『徒花（アダバナ）』が例年より頻出する。
　徒花から村人や未散を護る智枝に、未散は憧れながら心配もしていた。その上、智枝が自分以外の同世代の人間と交流する様子に胸が痛み、自身の変化に戸惑う。
　不安になった未散は智枝を責め詰ってしまい、自身の感情をも恐れる。だが、智枝も未散に対して桜憑きという立場以上の感情を抱いていると…続きを読む