失恋生活十日目
このゴッキーたち、目算で個体数は千程度かな?
うーん、しかも若干だけど水場にいたゴッキーよりも一回り全長が大きくない? 水場のゴッキーは1メートルくらいだったけど、コイツらはどう考えてもそれ以上に大きいと思う。
そして一番の問題は洞窟の構造なのだ。
この洞窟は再奥部が広い空洞となっていて広さで言えば一般的な学校の体育館くらいはあると思う。その天井にビッシリと隙間なくゴッキーが蠢(うごめ)いている。
この光景はさすがの美少女ハルちゃんでも気持ち悪さを覚えてしまった。そのあまりの光景に私は手で口を塞いでしまった。
「おっえ……、気持ち悪ー」
「にゃー……」
おっと、普段はゴキブリを餌として食すこともあるミケまでもが吐き気を覚えたようで、私と同じように手で口を押さえている。
それでも一応はこの洞窟を拠点にしたいから。だったらゴッキーを追い出せばいいのだけど、その手段が思い付かない。
奇跡的に鞄の中からバルサンを発見したのだけど……、私はそれを手にして頭を抱え込んで悩んでしまった。
「バルサン……一個しかないんですけどー。しかも六畳用のちっちゃいの」
「にゃー……」
ミケに「使えねー」と呟かれてしまった。それもまたしてもヤレヤレだぜ、と言ったジェスチャーをしながらミケは愚痴をこぼしていた。
ええ? 私が悪いの? だけどこの広さだとバルサンが何万個いるって話よ!!
「にゃにゃ」
おっと、ミケが私の怒りを察したようで「ごめんね」と肉球で私の肩をポンポンと叩いてきた。まあ良いけどね、私とミケの仲だし。
名コンビだし。
じゃあ、取り敢えずはどうやってゴッキー千匹をスマートに洞窟の外に追い払うか考えてよう。まず思案してみようと思います。
その一、ここで焚き火を起こす。
焚き火で発生する煙で洞窟内部に充満させる。つまりゴッキーの窒息を狙うわけね。
却下、この広さの空洞を充満させる煙を発生させるには相当量の資材が必要だし、そもそも出口を塞がないとダメ。
そんな手間のかかる作業はいくら私とミケでも不可能。出口の封鎖と焚き火は同時に出来ない。
その二、ゴッキーを私の魅力でメロメロにする。
私はこれでもグラミー賞の最終候補にノミネートされた実績を誇る演技力を持つ女。だから演技でメスのゴッキーになりきればフェロモンを放出させてオスを外に連れ出せます。
却下、連れ出せるのはオスだけで、メスにフィロモンは効果がない。そもそも私が生理的に受け付けません。絶対に嫌!! だってそんなことしたら『ゴッキーの晴』なんて不名誉なあだ名をつけられてしまうじゃない!!
それだけは断固拒否よ!!
じゃあその三、洞窟をダイナマイトで吹っ飛ばす。とてもスマートな方法で、それでいて最も確実な方法ね。
却下、洞窟自体が吹っ飛んでしまう。私はこの洞窟を拠点にしたいのに、吹っ飛ばしてどうするって話よ。
私は腕を組んでウンウンとヤジロベーの如く思案を深めていった。するとその隣でミケも私を真似てウンウンと唸り出す。
一人と一匹が一緒になって思案をしても一向に名案が思いつかないのだ。そして私は疲れたようにブツブツと喋り出した。
「うーん、アホ毛カッターで一掃する。……生理的に嫌。ゴッキーを火星に連れて行く、却下ね。それはさすがにどこかの有名出版社に訴えられそうだし」
「にゃー」
肖像権などで頭を悩ませていた私にミケがまさかに「名案が閃いた」と言って話しかけてきたのだ。
さすがはミケ!! 伊達にIQ120の天才猫だけあるじゃない!!
すると早速ミケは私にニャーニャーと耳打ちで作戦を伝え出した。ふむふむ、なるほど。私はその作戦を聞いてさすがはミケだと感心して思わずハイタッチをしてまった。
ミケの作戦はこうだ。
私が演技力を活かしてゴッキーの苦手なものになれば良いと。つまり彼らの巣に侵入してきた天敵を演じればいいと言うのだ。私とミケは入念に作戦を練って、互いにニヤッと悪い笑みを突き合わせてしまった。
そだよねー、ちょうど昨日、その天敵を倒してたばかりで戦利品としてその死骸をしっかりと持ち帰っていたのだから。そしてその死骸を使って同じく戦利品だった糸で縫って着ぐるみを作っていたのだ。
善は急げと私は鞄からゴソゴソと目当てのものを取り出して、これまたゴソゴソとセーラー服の上からそれを着だす。
はい、そうです。私こと鯖井晴は蜘蛛のコスプレでゴッキーを洞窟から追い出そうと思います。
「ミケ、ちょっと手伝って?」
「にゃにゃ?」
「このコスプレ衣装が私だけじゃサイズ合わないのよ。だから……」
「にゃにゃにゃ」
ふふふ、完成よ。
私とミケの合作、二人羽織蜘蛛コスプレの完成。そうなんです、全長10メートルもある蜘蛛だからサイズがブカブカで私一人じゃとても着れないのです。
こうして私とミケはタッグを組んで蜘蛛を演じ始めるのだった。まあ、10メートルもある蜘蛛だから女子高生と猫がいくら協力したってブカブカなんだけどね。
そこはスーパー女子高生と天才戦闘キャットのタッグの底力でどうにかしまーす。
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