失恋生活二日目
「ウェーイ」
私はザバッと波飛沫の音を立てて上陸を果たした。
三日三晩不眠不休で荒波の中を泳ぎ切ってやったぜ。実際はイルカを泳ぎながら真似て右脳と左脳を交互に休ませていたから、然ほど疲労は感じない。
海坊主の如く上陸を果たした私だったが、それと同時にお腹が鳴った。
流石に三日間何も食べていないから仕方がないと思う。
途中で魚を捕まえて丸齧りしてやろうかとも思ったけど止めた、思い止まった。それはそうだ。
「だって醤油もワサビもないんだもん」
それではと、私は空腹を満たすために陸に辿り着くなり食料を探した。キョロキョロと周囲を見渡すと鳥が数羽飛んでいる。
よし、アレが食料だ。
私は自分の頭部に生えたアホ毛の内の一本を掴んで、それを脱着させて空に向かって投げた。無論、鳥を標的として投げたのだ。
「必殺・アホ毛カッター!!」
これはいざと言う時のためにパパが編み出してくれた私専用の暗殺術で、実際に私は色んな国の大統領とか国王を暗殺している。
実績のある必殺技なのだ。パパに感謝せねば。
私のカッターが鳥を仕留めて、舞い戻ってくる。私は華麗にカッターを掴んで再び頭部に装着した。
「ふっ、こんな可憐な女子高生は他にはいまい」
トボトボと地面に落ちた鳥に近づきながら私は改めて思い返した。
私は決して不細工ではない、寧ろ可愛いと思う。家族だって友達だって皆んなが私を可愛いと言ってくれる。
目立ちもいい、輪郭だってちゃんとしてる。髪だって毎日しっかりと手入れをしてるからアホ毛を除いては綺麗だ、スタイルだって悪くない。
そんな私がどうして豪華客船の沈没によって何処とも知らない場所に海から上陸してしまうのか。
私は仕留めた鳥を持ち上げながら大きくため息を吐いてしまった。
だけどそれは今考えても解決出来ないわけで。今出来ることは私の腹を満たすことのみ。寧ろそろそろ限界だ。
飲料水は幸いに私が背負っていた鞄にあるからいいとして、とにかく腹を満たそう。
私は「うーん」と可愛く顎に人差し指を当てながら思案に耽った。
この鳥はどうやって調理すべきか。普通に丸焼きかな? ママの料理がそのほとんどが焼き鳥か丸焼きか刺身かサラダだったから、必然的に私の料理のレパートリーも同様になる。
となれば足らないものは……。
「焼き鳥のタレかな? 確か……もしもの時のために鞄の中に突っ込んだはず……。あった!!」
ティッティリー!! 業務用焼き鳥のタレー!!
私は何処ぞの猫型ロボットの声色を真似て便利グッズを空に掲げた。よし、調味料は揃った。後は火を起こせば焼き鳥の調理を開始できる。
でもどうやって火を起こすべきか。パパは「ダイナマイトなら楽だぞ?」とキャンプの時に教えてくれたけど、今は手持ちのダイナマイトが遠泳のおかげでずぶ濡れ。
他に方法を考えてみよう。
その一、ホストに優しくライターで火をつけてもらう。ホストクラブで接客をされる要領でタバコに火をつけてもらって、その日で焚き火を起こすのだ。
却下、上陸した場所の周囲を見渡す限りはそんなものは見当たらない。と言うか、凄く田舎臭がする。周辺は海か山しか見えないから。
そんな場所で奇特にもホストを経営するイケメンなんていない筈だ、ハルちゃん冴えてるー。
その二、魔法を使う。
却下、ここは現実世界であって魔法など存在しないから。
その三、炎が代名詞の
却下、ダメだ。資金源が心許ない。私の月のお小遣いは三千円だった。アカン、どう言う訳か芸人さんにフラれた気分になっちゃった。
セルフで凹むわー。
「炎!!」
念のため芸人さんの動きを真似てみたけど火はつかない。ダメじゃん、さらに凹むわー。
となるとやはりここはシンプルに……。
「火打ち石か木かな。うーん、でも周りは砂浜で石が無い、木材は……漂流してるんだ」
一帯に転がっている木材は全て海風で湿気っているようだ。これではとてもではないが火おこしの材料にはならない。
私は火を起こすために上陸した砂浜を離れて火おこし用の材料集めを始めることにした。
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