失恋生活三日目
「ライターの存在をすっかり忘れてた」
私は陸に上陸してから様々な方法で火おこしを実践してみた。だけど結果は散々だった。私の握力が300キロと言うこともあって、木製の道具じゃ私の無敵の握力には耐えきれなかったのだ。
そしてすっかり忘れていた。
私は失恋から不良になってやろうと決意してライターを持ち歩いていたのだ。タバコでも吸って箔をつけようとしたけど、何処のコンビニでも女子高生にタバコなど売ってくれるはずも無く。
仕方ないからライターだけポケットにしまっていたのだ。ライターの存在に気付いてから一瞬で火が着きました。
「これあったら無敵じゃん、ティッティリー!! ライター!!」
私はまたしても何処ぞの猫型ロボットのようにライターを掲げてみた。
虚しい……。
「とは言えライターも有限だし、そのうち火おこしの方法は考えておかなくちゃ」
そうなのだ、ライターは便利だけどいつまで燃料がもつかは分からない。それに私は思い知ってしまったのだ。
ここはおそらく無人島でした。
だっていくら声を張り上げても返事が返ってこないんだもん。だから『おそらく』と言ったわけだ。
四方を歩いて火おこし用の材料を探し回った時に、ついでに今いる場所の大まかに調査も行ったのだ。
その結果、ここに返事を返してれるような人はいない。私は上陸した砂浜まで戻ってため息を吐きながら焼き鳥の準備に取り掛かった。
私は火の上でパチパチと焼き上がっていく鳥を見ながら落ち込んでいた。何しろ失恋の傷を癒す旅行だったのに、まさかの漂流旅行になってしまったのだから。
まあ、失恋の傷を癒すだけなら無人島の方が気が楽なんだけどね。
「それでも一人ぼっちー……、なんか空気からもフラれた気分になった。お、鳥が焼けた!!」
私は昼間のうちに仕留めていた鳥が焼き上がると貪るように食べた。
美味い!! しかも非常用に携帯していた焼き鳥のタレがいい味を出して食欲が無尽蔵に湧いてくる。ま、業務用だから一斗缶サイズで持ち運びが大変だったけど。
持って来て良かった。自慢の握力を存分に活かして無理やり鞄に突っ込んだのが良かった。
私、グッジョブ!!
やはり出来る女は無人島でも勝ち組らしい。
私は心の中でガッツポーズをしながら自らを褒めた。そして食事を終えると今後について考えることにした。
それはこの無人島を歩き回って発見した『ある事実』への対策に繋がっていく。どう言う訳かこの島には恐竜がいるんです。
ティラノサウルスにマンモス。
女子高生が恐竜に詳しい筈もないけど、とりあえず私のしょぼい知識でも名前がパッと出てくる凶暴そうな恐竜とゾウさんのご先祖様はいた。
この島、ジュラってました。
「うーん、アレだけ大きいなら食料としては優秀なんだけどね」
恐竜だけあってとにかくデカい。そのデカさはいくら熊をアイアンクローで仕留めた私でも、流石にタダでは済まないと思う。
食料問題に安全面、場合によっては共存を検討するも奴らの戦闘力は未知数。
一匹や二匹だったらどうとでもなるけど、今は恐竜の個体数を把握出来ない。
私は火に当たりながら今一度現状を振り返る。いくら私がグリーンベレー戦闘術の使い手だからっておそらくタイマンでは敵わない。
機関銃はあるけど銃弾が有限だし、恒久的な対策にはなり得ない。
…………ま、いっか。
何とかなるでしょう。私は適当に結論を出して大の字になって寝転がった。「ふう」と息を吐いて空を見上げる。今は夜だから空には星が瞬く。
私は星に魅入ってふと呟いた。
「やっぱり一人は寂しいなー」
「にゃー」
「ん? 猫の鳴き声?」
「にゃにゃー」
どうやら聞き間違いではなかったらしい。そう言えば海の飛び込んだ時にも猫の鳴き声が聞こえた気がした。
私はハッとなって鞄の中身をぶち撒けてみた。
するとドサドサと詰め込んだ荷物が飛び出してくる。電子顕微鏡にこち亀全巻、それから遠心分離機やダイナマイトなど様々のものが飛び出てくる。
私もよくぞここまで詰め込んだと改めて自らに感心してしまう。
そしてふと目に入った存在がいた、なんと実家の飼い猫が鞄の中から飛び出してきたのだ。私は一瞬にして孤独を解消できて大粒の涙をこぼしていた。
私はギューっと猫の『ミケランジェロ』、略してミケを抱きしめていた。
「ミケーーーーーーーーー!!」
「にゃにゃーーーーーーー!!」
ミケと私は名コンビ、私はまたしても問題を解消したことになるのだ。
何しろミケはパパが鍛えた戦闘キャット、この子がいれば恐竜なんて怖くない!! 私はまたしてもパパに感謝せねば。
この島に来て私は家族の有り難みを思い知ることになった。
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