失恋生活九日目
「マンガ肉食べ損ねたーーーーー」
「にゃーーーーーーーーーーーー」
凹むわー。
完全に忘れてた。私には密かな願望があったのだ。
それは俗に言うマンガ肉を食べること、無人島に漂流して以来、私はそのチャンスをずっと涎を垂らしながら待ち望んでいた。
この島は生態系がジュラってるからいつかチャンスが訪れるだろうと、内心でワクワクしていた。
そして先ほどのティラノサウルスの襲撃、あれは絶好のチャンスだったのに。因みにミケも同じ想いです。
私とミケは一人と一匹で劇画タッチの表情になりながら落ち込んでいた。まるで戦場で追い詰められた日本兵の如く正気を失いながらトボトボと歩いていたのだ。
なんかマンガ肉にまでフラれた気分。
凹むわー。
「マンガ肉は学校帰りのスタバで頼む『トゥーゴーパーソナルリストレットベンティツーパーセントアドエクストラソイエクストラチョコレートエクストラホワイトモカエクストラバニラエクストラキャラメルエクストラヘーゼルナッツエクストラクラシックエクストラチャイエクストラチョコレートソースエクストラキャラメルソースエクストラパウダーエクストラチョコレートチップエクストラローストエクストラアイスエクストラホイップエクストラトッピングダークモカチップクリームフラペチーノ』くらい女子高生にとっては憧れなんじゃい」
「にゃにゃ!?」
私は噛まずにスタバの最長ドリンク名をスラッと言ったものだからミケが驚いている。ミケは私が背負う鞄からヒョッコリと顔を出して私の肩を肉球でペチペチと叩きながら何かを必死になって訴えかけるのだ。
「にゃーにゃ」
「え? 普通の女子高生はマンガ肉を語らないって?」
「にゃにゃ!!」
「うーん、スタバは分かるけどマンガ肉は何かが違うって言われてもなー。でもさー、女子高生って鞄の中にお菓子とか入れてるじゃん? 鞄からマンガ肉が出てきたら映えない?」
「にゃにゃー……。にゃにゃにゃー」
ミケに「微妙……、キャットフードよこせ」って言われちゃった。そんなモンあるか、むしろ私の方がそろそろ炭水化物とかが欲しいくらいなんだけどー。
そんな風に私がミケと島の内部を歩いていると、ふと目に入ってきたものがあった。
洞窟だ。
洞窟が視界に入ってきたのだ。島の内部に岩肌が露出した崖のようなものが所々に見られて、そのうちの一つに自然に発生したような洞窟らしきものがあったのだ。
拠点を探している私たちにとってはうってつけの発見だった。
「外から見た感じだとワンルーム物件かな?」
「にゃにゃー?」
私は取り敢えず洞窟の中を見学しようとソーっと内部を覗き込んでみた。こう言った洞窟物件は先客がいてもおかしく無いからまずはそれの確認だ。
場合によっては先客がいたら失礼だろうし、しっかりと対応せねば。私はもう中学生のような子供じゃないの。
女子高生は大人なのよ!!
「もしもーし?」
「……」
「こーんにーちーわー」
「…………」
「良い子の皆んなー、サンタのおじさん……じゃなかったおばさん、でも無かった。お姉さんじゃなくてピチピチの女子高生だよー?」
「………………」
「あっはーん!! 女子高生のハルちゃんだよーーーーーーーーー!! ハルちゃんはスッポンポンの生まれたままのスタバ……じゃなかった。姿だよーーーーーーー!?」
「にゃ!!」
「痛ーい!! ミケもどうして私の頭を引っ叩くのよ!!」
「にゃーにゃにゃ!!」
せっかく私がセクシーさをアピールして敵を誘き寄せようとしたのに、どう言う訳かミケに頭を引っ叩かれちゃった。
ミケがもの凄い剣幕で肉球で猫パンチをしてくる。ええー? そんなことは保護者のミケが許さないって?
またしてもミケに子供扱いされちゃった。
まあいいや。それはソレとして、とにかく私の声に反応がないからこの洞窟は先客がいないようだ。それは確定した。
それなら早速ここを拠点にしよう。私はミケに「行くよ」頷きながら声をかけて洞窟の内部へと歩いていった。中はひんやりとして涼しい、時折天井から水滴が滴り落ちる音がする。
ここは思った以上に快適そうだ。3LDKとまではいかないけど、私とミケが生活するには充分な広さがあると思う。私は洞窟を奥まで進んで内見を済ますとミケに話しかけるためにクルリと振り返った。
ここならミケも合格を出すだろうと思って「ミケもここで良いよね?」と言葉を口にしながら笑顔のまま振り向いたのだ。
だけどそんな私の笑顔は即座に崩れ落ちることになった。
なんとここには先客がいたのだ。私は一瞬にして渋い表情となってめんどくさそうに声を吐き出していた。
「ええ……、最高の物件だったのにー」
「にゃにゃにゃー!?」
ミケも先客の存在に気付いて、この島に来て何度目かのシェー!! のポーズを取って驚いた様子を見せていた。そうだよねー、ミケだってそう言う反応をするよね?
はい、ここはゴキブリの巣でした。
うわー、洞窟にまでフラれた気分。
凹むわー。
カサカサカサカサ!!
天井にビッシリと張り付いた数え切れないほどの巨大ゴッキーが私とミケの前に姿を現したのだった。
「私、ゴキブリホイホイは持って来てないよ?」
「にゃにゃにゃにゃー!!」
「え? バルサン? あったかなー?」
私はミケの肉球に促されるようにドカッと音を立てながら地面に鞄を置いて、中身を物色し始めるのだった。
ゴッキーたちの視線が怖いよー。それはこのゴッキーたちが水場で出会ったそれらとは比較にならないほどの大量の個体数だからだ。
カサカサカサカサ!!
今ここに美少女対古代ゴッキーの仁義なきバトルが始まろうしていた。
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