失恋生活十二日目
「ここからここまでがキッチン、で、この辺りにリビングでどう?」
「にゃにゃ!!」
「え? 鍛治スペースはどこにするかって?」
家事では無く『鍛治』。
そうなんです、実は私は鍛治技術も持ってます。タイムスリップして江戸時代とか戦国時代に飛んでは、その時代ごとに名作を生み出してきました。
『虎徹』とか『菊一文字』は全て私の手がけた作品で、名前も適当に考えました。虎徹はホルモン焼きの『こて◯ちゃん』から、菊一文字は『十◯文キック』から拝借したんです。
で、その実績を知るミケはこの新拠点に鍛冶場を作れと言う訳で。
「ミケ、作りたいけど鉄がないじゃん? だから包丁も、どこぞの額に竜の紋章がある騎士様が持つ『真魔剛うんらたらかんたら剣』も今は作れないの」
「にゃー……」
ミケは自分の夢が壊されたと大きく肩を落としながら落ち込んでいる。まあいいや。今の私はこの洞窟の間取りを考えている最中なのだから。
そこらへんで拾って来た棒で私は洞窟の地面に線を引いている。その線で立派な一軒家の構想図を描き終わって「ふー」と一息入れながら地面に腰を落とした。
するとミケは「にゃー」と私に労いの言葉とともにコップを差し出してくれた。このコップも私の鞄に詰め込んだ持ち物。
因みにコーヒーメーカーも業務用の豆も全て持参品です。
だけど『ミケが』コーヒーを淹れてくれたことに私は引っ掛かってカップを受け取りつつジト目を向けた。ミケにジーッと視線を送りながら真相を問いただした。
「ミケはじゃこう猫じゃないんだからね?」
「にゃーにゃー」
あ!! ミケってば誤魔化すように口笛を吹いてる!!
「だから言ったじゃん? ミケのウ◯コじゃ高級コーヒー豆にはならないって」
「にゃー……。にゃにゃ!!」
「え? 試しに臭いを嗅いでみろって?」
ミケは一瞬だけ落ち込んだかと思えば、今後は思い出したように文句を言う前にコーヒーを飲めと私に催促をしてくる。グイグイと私にカップを差し出すのだ。
なんでもミケが言うには「あんな野生猫と一緒にするにゃ」だそうで。戦闘キャットとしての沽券に関わると。
マジで?
ミケのウ◯コを煎じたお湯を飲めと? 女子高生の私に? 無人島だから開放感に身を任せてスカトロをしろっての?
「絶対に嫌。生理的に受け付けない」
「にゃにゃーーーーーーーーー!!」
私が汚物でも見るようにお断りを入れると、ミケは泣きながら洞窟から走って出て行ってしまった。あーあー、コーヒーを零しながら走っていっちゃった。
うー◯、これは私が悪かったのかな?
あれ? 伏字が使われた?
まあいいか。
ミケだって私にリラックスして欲しくてコーヒーを淹れてくれた訳だし。あの様子だと悪気があったとは到底思えない。
私は「よっこらせ」と声を漏らしながら起き上がってミケの後を追った。まあ、私とミケは仲も良いけどたまに喧嘩だってする。
だからこれもいつものことな訳で。
どちらからともなく謝れば私たちは仲直り出来るのだ。そう思って私は軽い気持ちで洞窟の外に出た。するとそこには鉢巻を巻いて桶と洗濯板で何かを擦るミケの後ろ姿があった。
因みに桶と洗濯板も私の持参品です。
私はソーッと近づいてミケが何をやっているか覗き込んで見た。するとミケはどこから採ってきたのか分からないけどリンゴっぽい果物を必死になって擦りおろしては絞る。
そしてその絞り汁で先ほどの『ウ◯コ汁』を割っているのだ。それもマッドサイエンティストの如くニヤニヤと黒い笑みを浮かばせて。
ミケは背後にいる私の存在に気づいていないのだろう。調合中に本音を漏らしていた。
「にゃー!! にゃーにゃにゃ!!」
「……好き嫌いは許さないって……どう言うこと?」
「にゃ!?」
ミケが驚いた様子で振り返る。
するとそこには口から煙を吐きながら映画の貞子のようにミケに歩み寄る私しか当然いない訳で。私は威嚇するミケの如く「シャーーーーーーーー……」と呟きながらミケに飛びかかった。
「アンタだってニンジン嫌いでしょうがーーーーーー!!」
「にゃにゃーーーーーーー!?」
そしてミケを羽交い締めにしてから4の字固めに移行した。私は女子プロでデビューした経験があるんだから舐めんなよ!!
これでも無敗のまま引退した女子プロ元チャンピオンなんだからね!!
するとミケは「にゃーにゃー!!」と泣きながら私の体にギブアップをすべく肉球でパンパンと叩いてくる。
いーや、絶対に許さん!!
ミケ!! アンタの行為は女子高生と言う生涯無二のブランドを汚そうとしたんじゃい!! 絶対に許さないからね!!
ん? でも待てよ?
ミケはどこからこのリンゴっぽい果物を採ってきたの?
だけど私はその疑問の答えを直ぐに知ることになった。なんと目の前にマンモスさんが怒りを露わにして怒り狂っているのだ。それも一匹じゃない。
三匹いるんですけど!!
「ミケ、このリンゴっぽいの……。もしかして?」
「にゃーにゃー」
ミケが自分の頭を肉球でポンと叩いて可愛く舌を出していた。それはテヘペロのつもり? ミケが言うには「奪っちゃった、テヘ」だそうで。
「うー◯、これは逆にチャンスなのかな? 象牙が手に入れば一気に生活が潤うわね」
「にゃにゃー!!」
「え? それを狙ってたって言うの?」
「にゃー!!」
私はミケにゲンコツを落としてから戦闘の構えを取った、その隣でミケは頭を摩りながら私を真似て構えを取る。
こうして私とミケはマンモス三匹と不可避の戦闘を始めることになってしまった。
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