失恋生活十一日目

「はあああああああああああ!!」

「にゃああああああああああ!!」



 私とミケは必死になって息を吐き続けた。何故かって?


 蜘蛛のコスプレを風船のように膨らませるため、ブカブカで一人ではとても着れないビッグサイズのコスプレを内部から膨らませてます。



 だけど蜘蛛のサイズは全長10メートルな訳で、これは一筋縄では膨らんでくれないサイズだった。当然ながら私は酸欠不足(チアノーゼ)になりかかってしまった。



「はーはー……はー。どこぞの頑固親父が経営するボクシングジムお抱えの熊殺しのミドル級ボクシング世界チャンプのスパーリングパートナーを務めたことのある私でもキッツイーーーーーー」

「にゃあああああああああああああ!!」



 完全にダウンして蜘蛛コスプレの中で大の字になって寝転がる私を横目にミケはずっと変わらず息を吐き続ける。私は三日三晩、遠泳を続けた女子高生なのよ?


 そんな私の肺活量を嘲笑うかのようにミケは、これでもかと言わんばかりに息を吐く。


 吐く、吐いて吐きまくって……ついにゲロまで吐いちゃった。



 私は膝を突いて二日酔いの酔っ払いの如く嘔吐するミケの背中をさすってねぎらいの言葉をかけた。



「ミケがキャットトライアスロンの金メダリストなのは分かってるけど頑張り過ぎ」

「にゃああ……おおええ……」

「うーん、コスプレも半分くらい膨らんだかな?」

「にゃーにゃ。おえええええ……」



 カサカサカサカサ!!



 お? 蜘蛛のコスプレの中にいるから洞窟の内部の状況が分からないけど、音だけは聞こえてくる。これはゴッキーが天井を動き回る足音かな?


 もしかして半分しか膨らんで無いけど蜘蛛のコスプレがゴッキーの琴線に触れちゃった?



 カサカサカサカサ!!


 ぎゃー!! 蜘蛛のコスプレの上を大量のゴッキーが走り回ってるー!!


 これは気持ち悪い!! 気色悪っ!!


 ゲルマン民族ならぬゴッキーの大移動じゃい!!


 ジ◯ラの大森林ならぬジュラ紀のゴッキー!!



「ギャーーーーーーー!! ゴッキーの重みでコスプレが沈んで来るーーーーー!! ザ◯ヤマが来るーーーーーーー!!」

「にゃにゃにゃーーーーーーーーー!!」

「気色悪ーーーーーーー!! ゴッキーの感触がコスプレ越しで伝わってくるーーーーー!!」

「にゃーーーーーーーーーーー!!」

「女子高生がゴッキーの足蹴にされるって、プレイが高度過ぎるってばーーーーー!!」



 カサカサカサカサ!!


 私とミケは発狂してしまった。


 だけどそれはそうでしょ? 千匹に及ぶゴッキーたちがコスプレの中にいる私たちを間接的に踏み潰しているのだから。


 この状況をカオスと言わずしてなんと呼ぶんじゃい!!


 私とミケは互いに抱き合いながらガクガクと震え上がってます。絶賛ジュラの恐ろしさを味わってます。恐竜なんて怖くないけどゴッキーの群れは怖い!!


 それでもこの状況になって出来ることも無い訳で。


 私は恐怖のあまり、ミケにことの責任を取れと泣きながら要求していた。



「ミケの作戦の結果なんだからどうにかしてよーーーーーー!!」

「にゃにゃにゃーーーーーーー!!」

「ひっ!! ゴッキーの足に踏まれたーーーーーー!! 少女の清らかな胸が汚されたーーーーーーー!!」

「にゃにゃにゃ!!」

「え!? 責任とって外に出るって!? 止めて、そんなことしたらゴッキーが中に入ってくるじゃん!!」

「にゃにゃにゃにゃーーーーにゃ!!」

「止めるなですって!? 止めるに決まってんでしょうが!!」



 ミケは私の発狂ぶりに本当に責任を感じたらしく、泣きながらコスプレの外に出て行こうとする。


 だけど断固拒否よ!!


 だってそんなことしたらゴッキーが直に私に触れることになるじゃない!!


 こうして私はゴッキー合計千匹が洞窟から退散するまで泣き叫びながら、外に出て行こうとするミケを羽交い締めにし続けるのだった。その間、私自身も必死だったからあまり記憶が定かでは無い。



 それでもゴッキーに踏まれている感覚だけはハッキリと覚えている。



「もうゴッキーは懲り懲りよ!!」



 私の魂の叫びが洞窟の中に響き渡っていた。

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