第5話 龍也という人

あっという間に二週間が経ち、莉子は家に戻って来た。

ガクトは嬉しくて

「ママ、ママ!」

と莉子に抱きついた。

愛しいガクト。

たった二週間、されど二週間。

莉子は離れている間、心配で仕方なかった。

莉子はガクトを思いっきり抱きしめる。ガクトはずっと我慢していた分、莉子に甘えた。


莉子は退院後、産休ギリギリまで会社に勤めるつもりだったが、もうすぐ九ヶ月になろうとした時に破水。

龍也の車で急いで病院に行き、急きょ帝王切開になった。


ガクトはまた我慢の日が続く。


しかし今回は兄弟が出来る為の入院。

ガクトは意地悪で厳しいおばあちゃんと、怖くて口が聞けない龍也の顔色を伺いながら、過ごすことになった。


産まれたのは双子の男の子。無事に産まれたが、体重がどちらも千五百に満たず、しばらくは保育器の中で育てることになった。

莉子は直接母乳を飲ませることが出来ないから、毎日毎日パンパンに張った胸を搾乳器で母乳を絞り、病院に持って行った。

初乳は赤ちゃんにとって一番大事な栄養素。

だが双子の赤ちゃんは吸う力が弱く、病院の哺乳瓶で莉子の母乳を飲んでいた。

莉子は時々泣きながら、小さく産んでしまった我が子に申し訳ない気持ちで搾乳器を使っていた。看護師は優しく

「双子の赤ちゃんは未熟児が多いのですから、こうして無事に産まれただけでも素晴らしいことなんですよ。」

と、莉子を励ました。


そして名前が決まった。

ケイトとレント。

ガクトと同じような響きになるように莉子は考えた。


一ヶ月半後、ケイトとレントは退院し、長谷川家に初めて来た。

さすがの義母も無垢な赤ちゃんにはメロメロ。

そして龍也も可愛がった。が、その分ガクトに厳しくしていく。いや、厳しいを通り越して、龍也はガクトにDVをするようになった。

それはおぞましく、莉子の目の届かないうちに頭を叩いたり、お腹を思いっきり蹴りあげていた。

ガクトは泣きながら、丸くなってうなだれる。時には嘔吐することもあった。

アザを見つけて莉子は泣きながらガクトを抱きしめる。ごめんね、ごめんねと何度もガクトに謝った。


莉子は龍也に怒鳴りつけた。

「自分の機嫌でガクトをいじめないで!なんでこんなひどいこと出来るの?龍也は父親なんだよ!二度としないで!」


それから龍也はしばらくは大人しかったが、莉子の目を盗んではDVや八つ当たりを繰り返していた。


✤✤✤


龍也は中身は子供だ。子供だからあまり懐かないガクトをいじめる。

ご飯を食べていると突然怒鳴りだし、

「お前の顔を見ているとイラつくんだよ!どこかに行ってしまえ!」

と、ガクトの顔を見ただけで機嫌が悪くなった。

龍也は莉子にベッタリのガクトが可愛くない。それに時には、龍也をにらみつけるガクトが許せなかった。


莉子はガクトを可愛がり、双子の世話も殆ど一人でみていた。


もちろん家事も手抜きが出来ない。


龍也は仕事に行く時のお弁当も、義母の作ったご飯やお弁当は食べない。

だから莉子は懸命に家事もしていた。


そして三ヶ月後過労でまた倒れ、入院。

莉子は子供達のことが心配だった。

特にガクトはまたDVをされていないか、気になっていた。

ケイトとレントは実家に預けた。

ちょうど離乳食を食べ始める頃になっていた。


莉子の心配をよそに、龍也は良いパパを演じていた。ガクトも不安になっていたが、いつもの怒鳴り声やDVは全くしなかった。

近所には良いパパと思われたかったのである。

都合の良いようにガクトを振り回していた。


✤✤✤


龍也はギャンブルが好きだ。

パチンコ、パチスロ、競馬、競輪、ボート。

莉子が入院中にも関わらず、ガクトを連れてギャンブルをしていた。

ガクトはタバコの臭いと、パチンコの大きな音が苦手だ。

しかしもし嫌だと言ったとしても、ガクトは龍也に殴られるだろうと、子供ながらに思っていた。

だから泣きたくなる気持ちを我慢して、龍也の言うがままにしていた。


そして二週間後莉子は無事に退院した。


✤✤✤


それから半年後、ガクトは二年生になり、ケイトとレントは保育園に預け、莉子も会社に復帰した。


長谷川家にはお金がない。

子供も三人になり、とにかくお金を稼がなければならない。それは龍也が家に五万しか生活費を出してくれないこと、義母も一円も出してくれなかたからだ。


だから莉子は子供達の為に働かなくてはならなかった。


龍也の給料は三十万程。なのに生活費五万円?生活出来るわけがない。

莉子は龍也にもう少しお金を出して欲しいと頼んだが、怒鳴られ、これ以上出せないと言われた。

龍也はその他のお金を全てギャンブルに使っていたのである。


長谷川家のすぐ近くには、ガクトと同じ年の子供がいる夫婦がいた。

夫婦は二人でスナックを営んでいた。龍也の機嫌の良い時は莉子を誘い、子供達が寝静まってからそのスナックに飲みに行った。

そこのマスターはギャンブルと女遊び、ゴルフと忙しく、殆どヒモ状態だった。そしてお金のない龍也に

「ゴルフやらないか?すごく楽しいぞ。」

と常々誘っていた。

ゴルフはお金がかかる。そんなお金があるのなら家に生活費をもっと入れろ!と、莉子は思いながら

「ゴルフばダメ!これ以上ギャンブルの他にお金がかかることをされたら困る!」

と龍也にも、マスターにも、クギを刺していた。

さすがに龍也は、ゴルフはお金が相当かかるから無理だよ。とマスターに断っていたが、一人で飲みに行くようになってから、マスターに吹き込まれ、莉子には秘密にし遂にゴルフをする約束をしてしまった。


そんなある日、莉子が龍也の車のトランクを開けて見てみたら、ゴルフバッグが隠して置いてあった。莉子は龍也に、

「あのゴルフバッグ一色、いくらしたの?ゴルフはダメって言ったよね!」

と、問い詰めた。龍也は開き直り

「二十万だよ!オレが稼いだ金だ!どうしようとオレの勝手だろ!」

と逆ギレした。

莉子は呆れて返す言葉もなかった…。





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