第3話 事件
義父はとにかくガクトが可愛くて仕方がない。
莉子が一年で仕事復帰した後は、殆ど義父がガクトの面倒をみていた。
しかし自営業をしながら、朝から夕方までガクトをみるのは、想像以上に大変だった。
ガクトはちょうど遊び盛りになってきて、事務所にある色々な機械に触りたがる。
お客さんが来た時は「じーじあそぼ!」と嬉しそうに、義父の仕事の邪魔をしに来る。
いくら可愛い孫でも、仕事中はさすがに困った。
義母は反対にガクトが大きくなってくると、「じーじ」の後にしか着いて行かず自分には懐かなくなってきたから、面白くなかった。
日増しにガクトを厳しくするようになっていたので、益々ガクトは「ばーば」を嫌がるようになった。
そこでガクトは、家のすぐ近くの保育園に通うことになった。初めは「ママ!」と泣き叫び離れることが出来なかった。が、回数を重ねる毎に保育園にもだいぶ慣れ、お友達も出来た。
義父はこれで仕事に専念できる、接待にも行けると安堵していた。
ガクトが三才になった頃、義父と一緒にお風呂にも入るようになった。
お風呂場はキッチンの横にあり、二人の楽しそうな会話が聞こえた。
歌を歌いながら頭と体を義父に洗ってもらう。ガクトは義父のヒザに乗りながら、最後に十数えてお風呂から上がる。
そして莉子の待つキッチンに行き、バスタオルで拭いてもらった。
定番だがガクトはこの時間が一日で一番楽しみな時間だった。
その後義父が一人でゆったりとお風呂に入る。
その後は義母が入り、龍也、莉子の順番だった。
莉子には毎日不思議なことがあった。
莉子の専用スポンジタオルに、いつも沢山の陰毛が着いていた。
龍也が交代勤務でいない時でも、毎日陰毛が着いている。気持ち悪いし、義母の嫌がらせか?もしかしたら誰か間違ってスポンジタオルを使っているのかもしれない。
莉子は自分の体を洗う前に、丁寧に陰毛を一本ずつ取り除き、しっかりスポンジタオルを洗ってから、体を洗っていた。
そして誰か間違って使っているのなら、誰も間違えないように、大きくスポンジタオルに「莉子用」と名前を書いて置いた。が、名前を書いてもまだ誰か使っているようだった。
莉子は気持ち悪くなり、とりあえず犯人探しよりそのスポンジタオルを捨てて、新しい物に取り替え、自分がお風呂に入る時に持って行き、お風呂から上がったら部屋に戻す用にしていた。
その後ガクトの話で犯人が分かる。
犯人は義父だった。ガクトを先にお風呂から上がらせた後、莉子の名前を呼びながら莉子のスポンジタオルで、自慰行為をしていたのであった。
ガクトはまだ小さいから義父のしていることが分からなかった。が、いつも莉子の名前を呼び、アノ部分をスポンジタオルで必死でこすっていたらしい。
そして時々ハァハァと声を出していたと言う。
莉子は驚いた。
てっきり義母の嫌がらせだと思っていた。
それが義父だったとは…。
義父は莉子に対してとても優しく、困ったことがあったらいつでも相談していいよと言っていた。そんな義父が自分のスポンジタオルでイッていたとは…。
考えてみれば莉子は二十四歳。義父はちょうど満五十才になったばかりだ。
盛りといえばまだ盛りなのかもしれない。
義母は義父より一つ下だが、足腰が弱くいつも痛いと言っている。長年連れ添った夫婦関係も、とうに覚めているのかもしれない。そう思うと莉子はゾッとした。
その日から義父に対しても不信感を抱くようになった。
ある日、莉子の家の道路を一本離れた場所に、新しく広告代理店が出来た。
義父の事務所よりははるかに大きく、社員数も多かった。
初めは義父の事務所には長年のよしみで、付き合ってきた人達が多く客として着いていたし、接待ゴルフの時も「あんな店に負けるなよ」と、応援してくれる仲間達がいたが、次第に新しい会社の方に仕事を頼むようになっていった。
やはり従業員の多さと、新しい機械には叶わなかった。
仕事の速さ、正確さ、料金などの差がかなりあった。
そして義父の事務所では、社員が減り、効率も悪くなり、仕事がだいぶ少なくなっていった。
頭とカンの良い莉子は、何となく事務所の様子がおかしいことに気付いていた。
しかし義父は「大丈夫」としか言わない。
そして一度上がった生活から抜け出せず、相変わらずの高級お寿司に接待ゴルフ、ギャンブルと辞めることが出来なかった。
義母も経営は全て義父に任せきりだから、事務所の状態がどうなっているかなど、知るよしもなかった。
そして数ヶ月過ぎた頃、家に督促状が頻繁に来るようになる。それでも義父は「大丈夫」と言い張り、義母は何のことか分からないと言うばかりだった。
莉子は心配になり龍也に相談するが、能天気な龍也は
「任せておけばいい!」
とだけしか言わなかった。
そんな時義父が行方不明になる。
警察にも捜索願いを出し、近所中心当たりをみんなで探した。
義母の実家にも行っていないか尋ねるが、来てはいないという。
あちこちに電話もしてみるが、一向に手がかりなし。
そして夕方ちょうど暗くなり始めた頃、急に莉子は胸騒ぎをし、家の後ろの栗の木をそっと見た。
そこには義父が首を吊り、変わり果てた姿になっていた…。
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