第2話 長谷川家の人々
莉子は晴れて長谷川家の一員になった。
長谷川家は小さな広告会社を営んでいる。
経営は全て義父のみで、義母は詳しい収入のことなど全く知らない。
他に五人の社員が働いていて、事業はそこそこ上手くいっていた。
特に選挙の時期は大忙し。あちらこちらからポスターを頼まれる。長谷川家にとっては稼ぎ時。
そして義父は接待も多くなり、気が大きくなる。
一段落すると義父は競馬、競輪、ボートと、ギャンブルを楽しむ。
それからゴルフも楽しむ。
けして上手くはないが、誘われるとそれなりのブランド品を着こなし、接待だと言い派手に遊んでいた。
ギャンブルで勝った日はご機嫌で、お寿司を注文し、家族で食べた。
それも回転寿司のお寿司ではない。本格的なお寿司屋さんから頼んだ、特上のお寿司だ。
莉子は驚いた。
莉子の家では野菜中心の食卓で、節約しながら生活し育ってきたから、特上のお寿司など有り得ないと思った。
✤✤✤
結婚して三ヶ月後、自宅兼事務所を新築した。
知り合いの大工にもうスピードで建てさせ、坪数も四十坪から五十坪に広げた。
長谷川家の後ろには小さな沼と、栗の木と雑草が生い茂っていた。
義父は沼を埋め立てし、雑草部分まで家を広げて建築した。
栗の木も切るか切らないかモメたが、義母が毎年栗拾いを楽しみにしているので、栗の木だけは残すことになった。
そしてこの新居は八百万で建てたと、義父の顔が広いからだと自ら近所中に言いふらし、自慢していた…。
新居は良い。
明るくなった玄関周り。広くなったキッチンとお風呂。そして続きの畳の部屋。スムーズな階段。
二階には広めの十畳の部屋が四つ出来た。
その中の二間続きのフローリング部屋が、莉子と龍也の新婚さんの部屋になる。
奥には布団を敷き、手前の部屋にはテレビを置き、ローソファとテーブルがある。
莉子はキレイ好きだから整理整頓もきちんとしていた。余計な小物類も置かない。が、龍也がゲーマーなのでゲームのソフトが所狭しとあり、それには莉子は少し不満だった。
新築と結婚のお祝いにと、莉子の父母は、お揃いの布団を二組セットと、化粧台とタンスを莉子にプレゼントした。
莉子は結婚にしばらく反対されていたので、こんなに沢山の贈り物をもらえるとは思っていなかった。
莉子は涙をそっと流し、両親に感謝をした。
そこで面白くない人物が現れる。
義母だ。
梨子の高校は義母と同じ高校の卒業生で、かなり年齢の離れた先輩後輩に当たる。
そして莉子は応援団長もし、成績もトップの秀才だったということを、結婚式の時に恩師から聞き、義母はその時から莉子に対する対抗心を持つようになった。
だから莉子の両親から沢山の物をもらい、自分達は何も準備が出来なかったことを、後々までずっと根に持つようになる。
そして莉子はまだ二十歳。当たり前のことだが、義母よりもはるかに若い。そしてスタイルも良く顔も美人だ。
家の家事も良く動き良く働くし、実家で培ってきた器量の良さと料理上手。何もかも義母より上手だった。
義母は同じ女としてのライバル心も強く抱いていた。
✤✤✤
そして莉子と龍也の第一子が産まれた。
待望の男の子。名前はガクトと名付けた。
二人はとても可愛がった。そして義父、義母もとても喜んだ。
特に義父はガクトを可愛がった。
しかし初めのうちはガクトのことを可愛がっていた龍也だったが、夜泣きがひどいと豹変し、
「うるさい!何とかして黙らせろ!」と言い、莉子に物を投げつけたりし、ガクトがヨダレを流したり嘔吐すると、
「きったねーなー!なんだこいつ!」と、いら立つようになってきた。
ハイハイやつかまり立ちをして動き初め、戸棚を開けたりイタズラするようになると、莉子をにらみつけ舌打ちするようにもなった。
特に龍也のお気に入りのゲームソフトを触ると、
「さわるな!」
と怒りだし、手の付けようのない八つ当たりを莉子にしていた。
妊娠した時はあんなに喜び、莉子のお腹が大きくなるにつれ、お腹を触り話しかけていた龍也だったのに…。
子供の成長を一緒に喜んでくれると思ったのに…。
莉子は達也に対して不信感を抱くようになった。
✤✤✤
長谷川家にはもう一人住人がいる。
龍也の弟だ。名前は太一。
無類の車とバイク好きで、高校を中退し仕事をしても、全て車とバイクに注ぎ込んだ。
車とバイクは義母に買ってもらった。
義母は龍也よりも太一の方が可愛い。だから高校を辞めたいと言った時にも、特に反対をせず、車とバイクを買う時にも好きな物を買いなさいと言い、太一を甘やかしていた。
そんな太一のことも母のことも、龍也は面白くなかった。
莉子も有り得ない!と思っていた。
太一は仕事を始めても長続きはしなかった。どこへ勤めても長くて一年程で辞めていた。
これではさすがにいけないと思った義父義母は、龍也に頼み、龍也と同じ会社に就職させて欲しいと、頭を下げた。
太一もこの時ばかりはさすがにヤバいと思ったのか、一緒に頭を下げた。
龍也は嫌だったが弟ということもあり、上司に頼み込み、太一を同じ会社に就職させた。
太一は真面目に働いた。それは車とバイクの為。だったが、すぐに職場で彼女をつくる。
しばらくは彼女に会う為に会社に行っていたが、そのうち龍也と莉子の部屋に転がりこみ、入り浸りになった。
毎日仕事帰りに遊びに行き、夜中に家に帰って来る。まるでホテル代わりだ。
そこまではまだ莉子は許せたが、いけしゃあしゃあとお風呂に二人で入り、食事も太一と彼女の分まで作って欲しいと義母に頼み込まれ、彼女の分まで食事を作る羽目になった。
太一からは光熱費も食費代も一円ももらっていない。
莉子の不満がフツフツたまっていった…。
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