第7話 七転び転び…

龍也の借金は莉子の両親のお陰で返すことが出来、家族みなホッとした。

しかし義母は、相変わらず莉子の悪口を近所中に、あることないこと言いふらし満足していた。

龍也はしばらくはギャンブルもゴルフもしていなかったが、借金が完済したことで少し調子にのり、給料の殆どをギャンブルに当てていた。

生活費はいくら莉子が頼んでも以前と変わらず、五万円しかもらえなかった。

後は莉子の働いた分でやりくりするしかなかった。


莉子はこの騒動以来、通帳と印鑑を全て持ち歩くようになった。

家に置いていたらまた同じことの繰り返しになる。もう両親には甘えられない。自分がしっかりしなくちゃと、更に自分自身に言い聞かせていた。


真面目にコツコツ働き、ボーナスをもらっても全て貯金。龍也のボーナスもあるはずなのに、

「少ないから渡せない」

と言う。

実際には夏は五十万、冬は八十万もらっていたのに…。


莉子は先輩や龍也の同期の人達からの情報で、龍也がいくらもらっていたのか知っていた。

だから、いくら龍也が誤魔化しても莉子には隠しきれないのに、龍也は隠し通せるとずっと思っていた。


莉子は自分の給料全て、生活費、学級費と全部支払っていた。

特にケイトとレントの場合、一度に学費や学校から指定された物を買わなくてはならない。

せめて家の食費を削ろうと思い、なんちゃって料理を考え、手作りしていた。

とは言っても、食べ盛りの男の子三人。

広告を見ては安いスーパーをチェックし、週に一度買い物をするのだった。


そんな時、世の中が不景気になり会社にもダメージが押し寄せた。

今なら自己退社で退職金を多めに渡すとか、個別面談を行い退職してもらうとか、会社のお偉いさん方は色々手を尽くしていた。

社員達はビクビクしながら働いていた。

友達もリストラされた。

同期も恨み節を言いながら退職した。次は自分の番かもしれない…。

そして次々と退職していき、社員は少しずつ減っていった。


そんな時、陰で莉子のウワサをする女子社員が出て来た。

莉子の旦那さんも働いているのに、どうして莉子は辞めさせられないのだろうと言う話だった。

夫婦で仕事している人達の殆どは、奥さんの方が退職させられている。莉子はひいきされているのではないか…とまで言われるようになった。

この時莉子は、自分がそうウワサされていることを全く知らなかった。

なぜならウワサしているグループは莉子の仲良しグループで、いつも雑談したりお弁当を一緒に食べていたからだ。

その女子グループは、莉子の前では平然とし、いつも通り仲良く話す。

そして誰か退職すると

「〇〇さん、退職決まったらしいよ。可哀想だね」

と莉子も一緒に話していた。

そして莉子がトイレに行った時に、

「莉子さぁ、いい加減気付いて欲しいよね。」

「そうそう、どうして龍也さんも働いているのに莉子は辞めないんだろうね。」

「そうだよね。他の人達は辞めてくのに、莉子だけずるいよね。」

「龍也さんも結構な金額もらってるんでしょう?」

「莉子も気付けばいいのに…。」

と、毎日同じ話をしていた。

みんないつリストラされるのか怖いから、一人でも多くの人達に退職して欲しいのだ。

そんな話をしているとは全く知らなかった莉子は、仲良しグループの輪の中に入り雑談をしていた。


しかしそんな隠し事はいつまでも続くはずもない。


グループの中で一番仲が良かった一人が、遂に莉子に告白をする。

「莉子さん、実はみんなそう思っていて…。」

「は?それを今までみんなと一緒にウワサしていたの?」

「ごめんなさい。グループからはじかれるのも怖かったし、でも莉子さんのことも可哀想だったし…。」

「へぇ、それで同情してくれてたんだ。ウチの家庭の事情も知らずに…。はい。分かりました。今まで付き合って頂いて、どうもありがと。お世話になりました。」

「莉子さん、私、莉子さんが可哀想だと思ったから…。」

「私はね、あなたのことを親友だと思っていたんだよ。それなのに一緒に私の悪口言ってたんでしょ?その方がよっぽどありがた迷惑。裏切りだよね。もう誰も信じない。信じられなくなった。」

と、スパーンと言い放って、莉子はその場を離れた。


莉子はすぐに退職願いを出し会社を辞めた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る