第6話 最悪
龍也との騒動の後、今度は義母の呆れる出来事があった。
義母は栗が好きだ。
毎年家の後ろにある栗の木から栗を拾い集め、縁側に干すことが楽しみだった。
義父が首吊り自殺をしてからも、その栗の木から栗を拾う。
その栗を子供達に食べさせたがる。
莉子は義父のことなど忘れてしまったのか?と考えてしまう。
とても気持ち悪くて、子供達には絶対に食べないこと!と、釘を刺していた。
✤✤✤
季節は巡り、今年も栗の時期が来た。
義母は足が痛いだの、腰が痛いだの近所の人達に言いふらし、大きな黒目をキラキラさせながら同情をかっていた。
しかし栗拾いとなれば痛いも何もない。
長靴を履き、落ちた栗のイガイガから長靴を上手く利用して栗を出し、厚い手袋をした手で丁寧に栗を拾う。とても満足気な表情を浮かべながら…。
そしていよいよ食べきれない程の栗を、縁側に予め敷いておいた新聞紙の上に広げる。
あー今年も大豊作。
自分の楽しみもそうだが、近所のオバサン達にもおすそ分けすることが楽しみの一つでもあった。
しかし近所のオバサン達は義父が首を吊った栗の木の栗は、もらっても本当は嬉しくない。むしろありがた迷惑とさえ思っている。やはり気持ち悪いからだ。
そのことに義母は気付いていない。
数日経ち莉子が掃除をしていると、気持ちの悪い大きな白い虫が、畳の部屋からキッチンへと侵入していた。
思わず莉子は「ギャー!」と叫んでしまった。
そう、その白くて張って歩く虫たちは、義母の拾った大量の栗から出て来た虫たちだった。
慌ててあちらこちらの虫たちを、まずは掃除機で吸い取り、縁側の栗を全部袋に詰め、後ろの栗の木の遠くの方へ捨てた。
莉子の叫び声が大きかったから、子供達は心配するし、義母は栗から出て来た虫たちを見て驚いていた。
そして莉子に
「すみません、すみません」
と謝った。
そして二度と栗は拾わない約束をした。
この話は悪い話として近所中に広がる。義母は、
「ウチの鬼嫁が、せっかく私が足腰痛いのを我慢して拾った栗をいらないと言って、全部捨ててしまったのよ。そして二度と拾わない約束までさせられたの。私の楽しみが奪われてしまってガッカリだわ。みんなにもあげたかったのに、あげれなくなってしまってごめんなさいね。」
と、大きな黒目を見開きうるうるさせながら同情をかっていた。
義母は話をして満足する。
そして近所のオバサン達は、これでやっと栗を貰わなくて済むと、心の中で安堵していた。
✤✤✤
もうすぐ冬到来になろうとした頃、突然お湯が出なくなり、水での生活になった。
莉子は龍也に工事屋さんに頼んで欲しいと言ったが、そんな金はない!と怒鳴られ、冷たい水で我慢する日々が続いた。
次は子供達がお風呂に入っていたら、突然キッチンと脱衣室との間のドアがバン!と倒れて壊れてしまった。どうやら湿気が原因のようだった。
莉子はさすがにこれは困ると思い、仕切りに水をはじくカーテンを取り付けた。
その次は和室の部屋の畳が歩く度に凹むようになった。音もベコベコと鳴る。
階段は少し大きな足音で歩いたら、突然抜け落ちた。
玄関は建付けが悪く開け閉めに力を入れたり、少しコツを取り入れないときちんと開閉出来なくなってきた。
まだ建てて10年しか経っていないのに…。
そう。これは欠陥住宅だった。
無理矢理沼をふさいだことと、日当たりの悪さで湿気が家中にこもり、窓を開けても風が通りにくくなった。
さすが800万で完成した家。
義父は自分の顔が広いから、安く建てることが出来たと自慢していたが、予算がそれなりだから、まだ新築同然の状態で、家の欠陥が出るようになった。
莉子はあきれ果てる。
龍也に相談しても「金がない!」の一点張り。
床は歪んで傾いてくるし、そのせいで莉子は疲れていると時々めまいを起こしていた。
✤✤✤
月日は流れガクトは中学二年生、ケントとレントは小学一年生になった頃、また龍也の怪しい行動が目につくようになった。
莉子に対してボーナスだと、急に一万円を渡したり、子供達に優しくするようになった。特にガクトには
「お前の顔を見てるだけでイライラするんだよ!」
と言っていたのに、
「勉強は大丈夫なのか?分からないところがあったら、オレが教えてやるぞ。」
と、身震いする程気持ち悪い態度で接するようになった。
莉子は絶対何か隠していると思ったが、まだこの時はそれが何なのか分からなかった。
それから一ヶ月程経った頃、龍也はソワソワしながら莉子に話かけてきた。
「実はオレ、パチンコで借金かなり膨らんで、自己破産しようと思うんだけど…。」
「はぁー?!」
「だから…自己破産…。」
「自分で何言ってるのか分かってるの?担保は?」
「この家…。」
「何言ってんの!!家がなくなったら子供達や私達どこに住むのよ!車だってないと通勤困るでしょうよ!何考えてんの!いくら借金あるの?!」
「ろ、六百万…。」
「あんた本当にバカだね!六百万で自己破産なんて聞いて呆れるわ!とにかく自己破産は絶対ダメ!勝手にしないでよ!」
「じゃあオレはどうやって借金返すんだよ!」
「本当に自分のことしか考えてないんだね!なっさけない!仕方ないからお母さんに聞いて見る。とにかくアンタは何もしないで!」
莉子は、はらわたが煮えくり返っていた。
こんなダメな奴、どうして好きになったんだろう…と、つくづく思っていた。
しかし子供達は絶対に守らなければ…。私が両親に頭を下げるしかない…。と、莉子は考えていた。
そして次の休みの日、龍也と莉子は莉子の実家に来た。話はもう通してあった。しかしプライドの高い龍也は頭を下げたくなかった。でもこうなってしまった以上、莉子の両親に助けてもらうしかない。龍也は一応反省しているように見せる為、頭を丸坊主にしていた。
莉子の父親はカンカンに怒っていた。もちろん母親も…。でも大切な娘と孫を路頭に迷わす訳にはいかないと思い、現金七百万円を用意していた。
借金の六百万円はそこから支払い、後は予備費として、莉子に百万円渡すつもりだった。
龍也と莉子は両親に頭を下げ、二度とこんな真似はしないと約束した。そして六百万円を渡す。龍也の目はキラキラと輝いていた。現ナマの六百万円は初めて見たからだ。
莉子はそんな龍也を見て、私がもっとしっかりしなくては…と、腹をくくった。
そして現金を受け取り、龍也だけ先に車で待っているように指示すると、莉子は父親からこっそり百万円を渡された。
これまではもらえないと莉子は断るが、また何かあった時の予備費だと言われ、百万円を受け取った。
莉子は涙が止まらなかった。
授かり婚で早くに結婚し家を出たのに、こんな形になるとは思ってもみなかった。
自分が情けなくて悔しくて仕方なかった。
✤✤✤
その後龍也は、子供達の学資保険にも手を付けていた。莉子の知らぬ間に子供達の通帳から全額引き落とし、解約していたのである。
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