第10話 歯車が回り始める

一ヶ月後莉子は車で事故を起こす。


渋滞に捕まり、莉子は最後尾に並んでいた。

その時猛スピードで走ってきたファミリーカーが、渋滞に気付くのが遅く、ブレーキを慌てて踏んだ時には既に遅し。莉子の車に勢いよくガシャン!とぶつかり、その拍子に莉子は前の車にぶつかってしまった。

その後、前に数台次々とぶつかる。いわゆる玉突き事故。完全に莉子にぶつかってきた車が前方不注意で悪いのだが、莉子の車も前にぶつかった為、莉子も事故処理をしなければならなくなった。

これには莉子もガッカリする。

もちろん車両保険に入っていたから、保険を使って前の車への賠償金を支払ったが、莉子の車はあちこち潰れ、前も後ろもドアもぐちゃぐちゃに壊れてしまった。

これは莉子の大誤算。

お金を貯めなくてはいけない時に事故にあい、車については追突してきた車が八十%支払ったが、莉子は車を買い替えなくてはならなくなった。

莉子自身もむち打ちになり、首にコルセットをしながら代車で仕事に行った。

しかし首が痛かったり後遺症で頭痛がしたり、時々吐き気もし、通常の仕事が出来ない。


ダイスケはしばらく休んだほうがいいと莉子に言い、自宅療養することになった。


まだ入社して数ヶ月しか経っていないから、莉子の有休はない。

莉子は悔しくて仕方なかった。


そしてこの期間に新しい車を買うことにした。


以前から良くしてくれている自動車屋に頼み、パンフレットを色々もらい考える。

中古車でも良かったのだが、軽自動車は前の購入者がよっぽど手入れを良くしていないと、すぐにあちこち駄目になる。

そこで莉子は新車を買うことにしたのだった。

そして借金はしたくなかったのでキャッシュで百五十万支払い、新車を購入した。


すると龍也は怒り出した。どこにそんな金があったんだ!と…。

もちろん莉子が働いて、コツコツ貯めていたお金の一部だ。文句を言われる筋合いなどまるでないのに、龍也は莉子がまだお金を隠していると思い、自分によこせと言ってきた。


莉子は理不尽な龍也に怒り出した。


「私はこの家のあちこちを、直さなくちゃいけないところも、自分の車も、全部自分が働いて貯めていたお金で支払ったのよ!アンタがケチって家に入れてくれない生活費だって、一生懸命節約して、みんなの為に私が頑張っているんじゃない!クビも痛くてしんどくて、仕事にもまだ行けてないのに、すごくツラい思いしているのにわかんないの?」

「オレは前よりパチンコだってあまり行ってない!」

「だったら生活費もっと出してくれてもいいんじゃないの!」

「オレには接待もあるんだよ!だから金はこれ以上だせない!」

「あっそう!分かりました!それならこっちにも考えがあるからね。そっちが改心しないとこれから先どうなるか知らないからね!」

「何だよ!意味わかんねぇ。」

「アンタは中学生の時学年トップだったし、高校入学もトップで入って、新入生代表で挨拶したんでしょ!そんな頭をせっかく持っているんだから、自分でちゃんと考えて、今までの行動とか反省して態度で見せたら?」

「…。」


この口論をガクト、ケント、レントの三人は陰に隠れて聞いていた。


龍也と莉子のケンカなど日常茶飯事。三人はまたか…。と思っていた。


しかしいつも正しいことを言っているのは、莉子の方だと分かっている。

ケントとレントも大きくなるにつれ、次第に分かるようになってきていた。何となく好き?なお父さんは、お母さんを苦しめていると思い始めていた。


そしていよいよ莉子は、ケントとレントに離婚を考えていることを伝える。

「あのね、ずっと黙っていたけど、お父さん家に少ししかお金入れてくれなくて、ずっとお母さん頑張って来たけど、だんだんお父さんといるの、疲れてきちゃったんだ。お父さんはね、パチンコとか競馬とかゴルフが大好きで、お金を他の人から借りてでもやりたいんだ。だからお父さんのことは信じちゃ駄目だよ。ウソだと思うかもしれないけど、これからはお母さんとお兄ちゃんと、ケントとレントの四人で暮らさなくちゃいけない。お話わかるかなぁ?」

ケントとレントはビクッとしてから、少しずつ静かに泣き始めた。

でも小さい頃から今までの、龍也と莉子のケンカを聞いていたら、お母さんの言っていることは間違っていないと理解し始めた。そして

「わ、分かった…。すぐに離婚するの?」

ケントが言うと

「ううん、まだだよ。今ねお父さんが気持ちを切り替えてパチンコとかゴルフとか止めて、ちゃんとお母さんにお金を渡してくれたら、お母さんも考え直すかもしれない。お父さんにも言ってるけど、今はお試し期間。だからケントもレントも誰にも言ったら駄目だよ。お兄ちゃんは知ってるから、何かお父さんに言われたりされたりしたら、すぐにお母さんかお兄ちゃんに話してね。約束。」

「分かった…。」

二人は泣きやみ目に力をこめて返事をした。

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