恐怖の「嫌よ嫌よも好きの内」
@HasumiChouji
恐怖の「嫌よ嫌よも好きの内」
「証人は名前と職業を述べて下さい」
「
「貴方と被告との関係は?」
リモートで証人として出る事になった海外の裁判で、弁護士は私にそう訊いた。
「知人です。ネット上での付き合いで、直接会った事は有りませんが」
「では……次に述べる日本語は、一般的には同意と拒絶のどちらの意味でしょうか?『嫌』『やめて』『助けて』」
えっ?
海外の日本のマンガのファンが、性犯罪容疑で刑事起訴されたが明らかな冤罪なので証人として手を貸して欲しい。
それが、画面に映っている弁護士に頼まれた事だった。
「えっと……拒絶の意味ですが……」
画面上の弁護士の顔は「えっ?」っとでも言いたげなモノになった。……ただし、どこか芝居臭いように思えなくもない表情だ。
「ところで、貴方は日本の漫画に詳しいですか?」
「は……はい」
「詳しいと云うのは、どの程度ですか?」
「はい。漫画に対する表現規制に反対する議連の発起人です」
「ポルノ・コミックについても?」
「……ええ……。その呼び方には異論が有りますが……」
「貴方は被告に日本のポルノ・コミックを何冊か紹介しましたか?」
「は……はぁ、まぁ……」
「Yes/Noどちらですか?」
「Yesです」
「被告人は、貴方に紹介された日本のポルノ・コミックで日本語を覚えた結果、被害者である日本人女性が発した拒絶の言葉を同意の意味だと勘違いしてしまった、と主張しています」
「え……えっと……そちらの国で起きた事件なのに……その……被害者は日本語を使ったのですか?」
「混乱のせいで、こちらの言葉ではなく、日本語が出たものと思われますが……本題とは無関係なので詳しい説明は省きます。では、貴方が被告に紹介した日本のポルノ・コミックの一部を画面に表示します」
え……えっと……何が起きてる? 何がどうなっている?
「我が国の一般的な感覚では、これらの女性は嫌がっているか苦しんでいるように思えますが、日本のポルノ・コミックの一般的な読者は、どう解釈するのでしょうか?」
「えっと……エクスタシーに達していると解釈すると思います……」
「つまり、これらの女性は性交に同意していると見做せる訳なのですね」
「えっと……その……これらは『即堕ち』ものと呼ばれるジャンルで……」
「こちらの質問にはYes/Noで回答して下さい」
「Yesです……どちらかと言えば」
「では、これらの女性が言っているセリフを日本語で読み上げて下さい」
「『いや』『やめて』『たすけて』」
「裁判長。先程の言葉が被告による犯行の際に被害者が発した日本語の言葉である事は、提出した資料に書かれている通りです。この為に、被告は被害者が性交に同意したと勘違いしてしまったのです」
恐怖の「嫌よ嫌よも好きの内」 @HasumiChouji
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