05 『考えてみた』結果

 アクアパッツァは煮えていた。

 鉄太郎はひとつ伸びをして、食べながら、『考えてみた』結果を入力した。


「源頼政は福原遷都が実施された場合、摂津源氏の根拠地・渡辺津が海外交易や国内水運の利益を福原にことを危惧し、また、平家による日宋貿易によって宋銭が流通し、これまで絹を基本としてきた武士団の『経済』が下降していくことも危惧したと思います……と」


「そしてそれは、以仁王にもされた……と、書いといてね」


 画面上でさくらがウインクしている。

 分かったよ、と鉄太郎は肩をすくめた。


 どうにか五分で考える課題とそれについての一定の回答を得て、ほっとしている二人に、さっそく担任の木江田先生からメッセージが届いた。


『興味深い考えだと思います。それが合っているかはどうかさておいて、できる限りの情報を集め、それを吟味し、発想する……その経験が、あなたたちの今後の糧になることでしょう。

それにしても、ホントによくやりましたね……


 鉄太郎はてのひらで額を叩く。


「やっぱバレてたか」


「そりゃそうよ。あれだけの間、画面から見えなければ、いくら木江田先生でも気づくわよ」


 鉄太郎はテーブルの上のアクアパッツァを前に苦笑した。

 さて食べようかとしたところに、新たにメッセージが来た。


『それはそうと、鉄太郎くんは勝手に離席していたので、その代償として、次のオンラインランチ会の幹事をやって下さい……そのアクアパッツァのレシピと共にね』


 画面上の白衣白髯はくいはくぜんの木江田先生がと笑った。

 それが狙いだったのでしょう、と言わんばかりの笑みだった。


「先生は全てお見通しってワケか」


 鉄太郎としては、さくらの勧めもあって、ある程度上達した(と思われる)料理を引っさげて、クラスのオンラインランチ会をするつもりだった。

 そのため、次のオンラインランチ会に備えて、アクアパッツァを作ってみて、「行ける」と思ったら、幹事に立候補するつもりだったのだ。

 ……さくらにを見せるために。


「え? 何? 何のこと?」


「い、いや、何でもないよ。それよりさくらちゃん、向こうでおじいちゃんが胡麻ごまだれうどんできたって手招きしているよ」


「あ、じゃあ、後でね」


 危ない危ないと息を吐きつつ、今度こそアクアパッツァを賞味し、そしてガッツポーズをする鉄太郎であった。


【了】

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源三位頼政は何故挙兵したのか? ~とあるオンライン授業の一幕~ 四谷軒 @gyro

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