04 話しているうちに
考えたんだけど、と言い出したけど、その実、考えたわけではない鉄太郎である。
しかし、こういった問題は、得てして会話しているうちに閃きがあるものだと思い、とにかく話し出す鉄太郎だった。
「さくらちゃんはさっき、武士の意地とかそういうので、人はついてこない、家族まで死にそうな目に遭ってしまうような戦いには参加しないのではないか、というようなことを言ったよね」
「うん」
「……なら、参加したくなるような動機って何だろう?」
「…………」
「むろん、現代人の感覚で、武士団の気持ちを推し量れないだろうけど、でもこれは『考えてみる』ことに意味がある授業だし」
「そうね」
端的に言うと、逆に戦わなければ死んでしまう、滅びてしまう、という極端な理由が有ったのでは、とさくらは思った。
「でもそれが分かんないのよね……これってどう考えても、平家に逆らう方が滅びるルートだし」
「うーん……そっか」
鉄太郎はさくらのその台詞に、
それを忘れないうちに、口に出す。
「平家に逆らわないと、逆に滅びる……そういう理由があればってとこだね」
「そうそう」
鉄太郎は改めて歴史便覧を眺める。
さきほどのさくらと祖父の会話を聞いていて、何気なく開いた「平氏政権」、「日宋貿易」、「大輪田泊」、「福原遷都」といった記事の頁を開いていた。
「うーむ……」
さっきのさくらの祖父の宋銭についてのコメントも気になる。
何か……何か、引っかかるものが。
その時ふと、さくらが開いた、源頼政の摂津源氏の拠点・
「渡辺津? これってもしや……」
ブラウザを新しいウィンドウで開き、渡辺津を検索する。ヒットしたネット事典の記事を流し読みする。
「瀬戸内と旧淀川、京へと繋ぐ……結節点……」
思考がめぐる。
急旋回する。
鉄太郎は便覧の「福原遷都」の欄に釘付けになる。
「大輪田泊という貿易港の近くに
もしや。
渡辺津は、京へと繋ぐ意味が無くなる。
なぜなら、京が福原へ行ってしまうのだから。
すると。
*
一方でさくらの方も、鉄太郎が沈黙したせいもあって、さきほどの祖父の宋銭云々のことが頭を
「おじいちゃんに聞きに行ってもいいけど、オークション中はハイになってるしなぁ……」
やはり、自分で考えるしかないか。
さくらは頭の後ろで手を組むと、上を向いて考えをめぐらせた。
「うーん。そういえば……宋銭が来るまで……和同開珎とかがNGになってから、その間は何がお金だったのかしら……」
さくらがネット事典を渉猟すると、
「何これ公定価格? 何々……代用貨幣? あ、絹をお金にしていたのか!」
そして、その絹は、日宋貿易によって宋銭が出回ることにより、価値が下がったという。
つまり、いわゆる年貢の取り立てのような、租税は絹でやっていたのに、宋銭が登場したら。
「そりゃあ宋銭の方に行くわよねぇ……軽いし、集めやすいし、楽だし。でもそうすると……あ」
そうしたら、これまで絹を基本に経済を回していた、旧来の武士たちはどうなるか。
「っていうか、武士たちだけじゃないわ。そもそも税って……租庸調だっけ、朝廷が……」
後白河院・第三皇子、以仁王。
そういう立場の人こそ、最も経済的に被害を受けたのでは。
そして。
「さくらちゃん! もしかしたら、摂津源氏って、経済的にまずい状況に追い込まれたんじゃ……」
「奇遇ね、鉄ちゃん。わたしも今、似たようなことを!」
オンラインなので、音はならないが、ハイタッチの仕草をする二人だった。
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