03 さくらの家で

 さくらの家。

 リビング。


「さて」


 と、さくらは言って、パソコンのキーボードを叩いて、木江田先生に提出するシートに入力を始めた。


「タイトルは『源三位頼政げんざんみよりまさは何故挙兵したのか?』、と」


 検討の欄に、「武士の意地?」とか「源氏として平家の下は嫌だった」と入れる。


「でもこういう通説? 定説? ……を載せただけじゃ、『考えてみた』とは言えないわね」


 画面の向こうの鉄太郎は「ちょっと料理の様子見てくる」と外している。

 鉄太郎は親が海外出張で、ひとり暮らしをしている。

 そのため、さくらがオンラインランチ会を企画して、自炊を勧めてみたが、こうまで「まる」とは、思ってもみなかった.


「将来的にはありがたいんだけど……今はこれ、考えてもらわないと」


 さくらは待つ間も時間が惜しいので、国語便覧の関連ページを繰って、何かないかと探す。

 リンク先にたまたま平家納経が出て来て、日宋貿易に軽く触れられていた。

 そこを、さくらの祖父が声をかけてきた。


「さくら」


「何? おじいちゃん、今、忙しいの」


「すまんすまん。お昼は胡麻ごまだれうどんでいいかの?」


「あ、ごめん。それでお願い。サンキューね、おじいちゃん」


「何の何の……で、何をやっとるんじゃい?」


 さくらの祖父は「ごめんよ」と言ってから、さくらのうしろから画面を見た。


「ほうほう。日宋貿易……これは宋銭じゃな。さすがに最近の教材は、綺麗じゃのう」


 さくらの祖父は古銭のコレクターだった。


「しかし何だってこれを見てるのかのう……今、国語か? それとも歴史の授業かい?」


「ああ、それは」


 さくらはかいつまんで、源頼政挙兵の理由を考えることになった、と告げた。

 すると祖父は少し考える動作をして、言った。


「さくら。何で宋銭が日宋貿易の輸入品となったと思う?」


「そりゃあ、日本に貨幣が無くなったからでしょ。確か、和同開珎わどうかいちんとかそういうの、あっさり途絶えたっていうし」


「そうじゃのう……それで」


 そこまで言ったところで、祖父の端末が鳴った。


「いかん、大義通宝のネットオークションが始まるんじゃった!」


 一瞬のうちに自室へと消えていく祖父を、さくらは唖然として見送った。

 何のことやらと肩をすくめていると、その時には鉄太郎がパソコンの前に戻っていたらしく、コーヒーを飲んでいた。


「あ、ずるい」


「ごめんごめん。これ、パナマから父さんが送ってくれたコーヒーなんだ」


 鉄太郎の父は海外を飛び回っている。この前はキー・ウエストに行っていたという。

 鉄太郎はそれ以上のさくらの追及をかわすように、「考えたんだけど……」と言い出した。


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