02 課題発見 ~以仁王の挙兵、あるいは源頼政の挙兵~
「もう、選り好みしている場合じゃないか」
鉄太郎は歴史便覧の「源平の戦い」のページを開いていた。
その中で、何かないかと探す。
すると、モニタの向こうのさくらが「これって不思議よね」と言い出した。
「何?」
「わたしは今、国語便覧を開いているんだけど、『平家物語』についてだけど、この……
「ああ」
それは鉄太郎も歴史便覧で見ていた。
以仁王の挙兵。
後白河法皇の皇子、以仁王が平家の支配に抗し、摂津源氏・源頼政と共に挙兵したとされる戦い。
だが、圧倒的勢力を誇る平家の前に敗れ、以仁王も源頼政も死んでしまったという。
ちなみに、その時に以仁王が令旨を発し、全国の源氏に呼びかけた結果、木曽義仲、源頼朝らが起ち上がり、やがては平家を滅ぼすに至る――治承・寿永の乱へと発展する。
このあたりが「源平の戦い」として、便覧に載っていた。
「平氏政権、日宋貿易、宋銭、
カラーの写真やイラストで解説された事件や事物をざっと見る。
「……それで、何でかっていうと、以仁王が挙兵するのは分かる気がするの。天皇になれなかったから、なるためでしょ?」
「うん、よく分からないけど、たしかそんな話だったような」
鉄太郎は歴史の授業をちょっと思い出して、そう答えた。
「……で、以仁王はそれでいいんだけど、一方で、源頼政の方は、何で以仁王に付き合ったの?」
この場合、事実上、武士団を有する源頼政こそが挙兵したと言っていいと思う……と、さくらは付け加えた。
さらに……と、さくらは言いつのる。
「だって源頼政って、保元・平治の乱を生き延びたのよ。おまけにその後、『平家物語』に書いてあるけど、
以仁王が挙兵したいのは勝手だけど、放っておけばいいじゃない……ということである。
鉄太郎としては、それは源氏の家柄だからとか、いつまでも平家の下で嫌だったとかあるんじゃないかと思ったが。
「うーん……」
「どうしたの? さくらちゃん?」
「いや、意地とか下にされて嫌だとかも分かるんだけど……」
「けど?」
「それで頼政の家来たちは従う?」
「そりゃあ、
「だって死んじゃうよ? おまけに、負けたら領地没収で、残された家族とかどうするの?」
ほらここ、と言って、さくらは画面上に、いつの間にやら出したのか「摂津源氏根拠地・
ふうん、とうなずきながら、鉄太郎はいちおうの反論を試みる。
「いやまあ、そりゃあ武士だし……」
「でも、武士って一所懸命でしょ? 土地を失う戦いって『有り』なの?」
「……うーん」
唸りつつも、鉄太郎はこれで『考えてみる』の対象である課題をゲットしたと思った。
「確か木江田先生は、別に正解でなくてもいいから、とにかく『考えてみる』こと……って言ってたよなぁ」
何らかのクエスチョンを探して、それに対するアンサーを出す。それが「正解」かはさておいて。
先生としては、そうやって生徒たちの『考える力』を養おうとしているのだろう。
「よし、じゃあさくらちゃん、それで行こう。とりあえず先生にはこう伝えておこう……
「オッケー」
さくらのウインクに応じつつ、さてこれからアクアパッツァが出来上がるまで――この課題について考えるまで、どれだけ時間が残っているかな、と鉄太郎は思った。
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