源三位頼政は何故挙兵したのか? ~とあるオンライン授業の一幕~

四谷軒

01 オンライン授業ワークショップ「考えてみる」

埋木の花咲く事もなかりしに身のなる果はあはれなりける


源頼政



 マダイに塩をふり、フライパンで焼く。

 焼き色がついたら、ひっくり返してもう片方の面も。

 

「そろそろかな」


 鉄太郎はフライパンにひたひたの水を注ぎ、煮る。

 煮汁を一定の間隔でかけ、アサリを入れる。

 アサリを入れたら開くのを待つ。

 開いたらミニトマトを入れて、今度はオリーブオイル


「たっぷりと。で、五分くらい煮て」


 そこでテーブルの上のパソコンから声がかかった。


「鉄ちゃん、何してるの? 今、授業の最中でしょ?」


「いや、ちょっと。ごめん、さくらちゃん」


 鉄太郎はこそこそと端末をテーブルの下で操作し、さくらに「料理してた」と告げた。


「呆れた……『考えてみる』のワークショップの最中なのに、鉄ちゃん、席外してるんだもん」


「ごめんごめん」


 鉄太郎とさくらは中学生で、通っている中学校がオンラインでの授業をしているため、こうして自宅で授業を受けている。

 そして今、お昼前、午前最後の授業。

 担任の木江田先生が「ワークショップをしましょう」と提案し、さくらとペアになって、そのワークショップ「考えてみる」の課題を検討している最中だった。


「何か調べてくれているのかと思ってたら……」


「面目ない」


 木江田先生は「どうせオンラインだし、やるなと言われても無理でしょう」と言って、ネットや本、家に誰かいる場合は聞いてもいいから、とにかく考える課題を見つけ、それについて、一定の答えを得ることを求めた。

 具体的には今、午前の最後の授業中に調べ、話し合ってもらい、午後の最初の授業で「結果」を話してもらう流れである。


「自ら課題を探し、それについて答えを考える……それがこのワークショップの目的です」


 そう言って、白衣白髯はくいはくぜんの木江田先生はパソコンのカメラから見えなくなった。

 木江田先生が消えた、とは生徒たちの冗談だが、元々、木江田先生は「自習」として、自分は趣味の科学雑誌を読んでいることで有名だった。


「ほら、あと五分かそこらで授業終わりよ。さすがの木江田先生も、何も発表できなきゃ怒るでしょ? 何とかしてよ」


「分かった分かった」


 木江田先生は、選ぶ課題はどの科目のものでもいいと言っていた。

 鉄太郎は何気なく画面上に開きっぱなしだった歴史便覧をクリックして、ページをめくっていく。


「ああもう、早く早く」


「そういえば、さくらちゃん」


「何?」


「さくらちゃんは僕がいない間、何か思いついたの?」


「今、そんなこと言ってる場合じゃないでしょ!」


 人のこと言えないじゃないか、と思った鉄太郎だが、彼はそれを口にすることは無かった。

 言ったが最後、残った五分はさくらの舌鋒によって消え失せるだろう。

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