その巣の本当の姿は他人には分からない

人は、それが家族であっても、夫婦であっても、相手のひとつの顔しか見えていないのかも知れません。それはおそらく常に自分のフィルターを通した人物像だからでしょう。
この物語では、語り手が変わることによって視点が変わり、それによってひとつの顔しか持たなかった人物のもうひとつの顔が見えてきます。そしてその姿こそ、その人の真実だったということが分かるのです。
周りとの絶対的な同調を強いられる地域社会の中で壊れていくもの。
外側のかたちにこだわるあまり内側で腐敗していくものに目を塞いでしまう。
相手の思いに気づいた時はもう遅い。
エピソードが進むごとにさまざまな思いが交差し、蜘蛛の巣を張っていくような人間模様が浮かび上がります。ひとがどんな巣を作っているのか、本当のことは他人には分かりません。
家族、夫婦、社会について深く考えさせる、強い余韻を残す物語です。

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