第4話 ヤンデレ系Vtuberに監視されているようです。

 まるで僕に向けて告げたかのような言葉でした。けど、そんなはずはありません。

 僕が視聴しているのは動画です。ビデオ通話ではありません。彼女には僕の姿は見えていないはずです。


(ぐ、偶然に決まっています)


 そうあって欲しいという僕の願いは、図らずも画面の向こう側の少女が証明してくれました。


『せっかくいらっしゃったのですから、最後まで観ていってくださいましね?』

「そう、ですよね。全員に話しかけているんですよね? あは、は……自意識過剰でしたね」


 僕ではない誰かに語り掛ける病依やまいさんを見て、深い安堵を覚えます。


(観ているのは僕なんですから、見られているはずありませんもの)


 視聴開始してから5分も経っていないのに、全身脂汗でびっしょりです。前髪や服が貼りついて気持ち悪いということに、僕は今になって気が付きました。


「もう一回、お風呂に入りましょうか」


 動画再生中のスマホはそのまま机に置いていきます。

 停止しようとするとまた止められるのではないか。漠然とした恐怖がまとわりついていて、電源を落とす気にはなれませんでした。


 生放送の音声を流したまま、僕は部屋を出ていこうとします。

 けれど、意識はスマホに向けられたまま、無意識に音を拾ってしまっていました。だから、聞いてしまったのです。

 背筋の凍るような恐ろしい言葉を。


『これからお風呂ですか? ――誘花ゆうかさん?』


 僕の……名前?

 頭が真っ白になりました。なにを言っているのか、最初は理解できません。

 けれども、徐々に彼女の言葉が脳に染み込んでくると、寒くもないのに体がガタガタと震え出してきます。


(なんで……どうしてですか?)


 雪の中に埋まってしまったかのように、凍えてかじかむ体を擦ります。

 ゆっくり、ゆっくりと、震える手でスマホを取り上げました。200gぐらいしかないはずなのに、ダンベルを持った時のような重量感が僕の手を襲います。


 手汗で落としそうになるスマホを、瞳だけを動かして見下ろします。

 視線の先、画面の向こう側には口が裂けたと錯覚してしまうほど、唇の端を大きく吊り上げて空恐ろしく笑う少女が居ました。


『くすくすくす……そのように顔を青くして、いかがなさいましたか――難嬢誘花なんじょうゆうかさん?』


 ぷつり、と頭の中で切れる音がしました。それ以降の記憶はありません。

 けれど、意識を失う前にただ一つ、記憶に刻まれたことがあります。

 それは、Vtuber病依やまいココロに監視されているという身の毛もよだつ現実でした。

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