第10話 僕は先輩の手に敏感なカラダに開発されてしまいました。

 耳を疑うシュルス先輩の発言に、僕の頬を冷や汗が伝います。


「じょ、冗談ですよね?」

「そう思っていても構わないよ?」

「シュルスせんぱっ、……んんっ!?」

「はむ……ちゅぱっ」


 顔を近付けてきたと思うと、耳朶みみたぶを軽く噛まれました。

 自分のとは思えない、変な声が口から零れて戸惑います


(なんで、どうしてこんなことを……!?)


 混乱する僕なんてお構いなしに、シュルス先輩は僕の耳を唇で撫でます。

 時折、ぴちゃ……くちゃと唾液の音が響き、僕の脳を痺れさせました。


「うひゃっ!?」

「んぱっ……んふふ。驚いたかい?」


 にゅるりと、生き物が這うように、シュルス先輩の舌が僕の耳をねぶりました。


「かわいいね、君は」

「やめっ……!」


 静止の声なんでシュルス先輩には届きません。

 丹念に、丁寧に、僕の耳の中まで舌が伸びます。普段他人に触れらない部分を舌で舐められるという感覚。不快でありながら、脳髄のうずいを犯すような背徳的な快楽が僕の体を無意識に震わせました。


 このままではいけない。

 理由はどうあれ、好き合ってもいない男女がこのような行為をしていいはずがありません。

 体を寄せてくるシュルス先輩は、どうには引き剥がそうと試みます。


「離れてください……ッ」

「おっと」


 僕に押されてシュルス先輩は体を仰け反らせました。

 耳から彼女の口が離れて、小さく息を吐きます。

 これで諦めてくれれば良かったのですが、この行為は逆にシュルス先輩の熱を上げるきっかけになってしまったようです。

 火照ったように頬を紅潮させたシュルス先輩は、挑発的にわらいました。


「いいね……抵抗してごらん? 逆に燃えるよ」


 ぞくり、と体が震えます。直観が告げる悪寒。

 男だ女だなんて言っていられません。とにかく逃げなくてはいけないと、力尽くで押し退けようとしました。

 僕とシュルス先輩の体格は近いですが、性別による力の差があります。どうにかなるはずです。そう思っていたのですが、失敗してしまいました。


 どれだけ押し退けようとしても、巧みに力を逃がされてしまいます。

 遮二無二しゃにむに手足を動かしても、呆気なく取り押さえられてしまいました。


 お腹に跨られ、腕を取られ。

 結果的に、逃げ出そうとする前よりも拘束力が強くなっていました。

 僕は悲鳴を上げるように叫びます。


「なんで振り払えないんですかっ!?」

「はっはっは。柔道を主体とした護身術だ。探偵には身を守る術も必要だからね。役に立ったろう?」

「どこが!?」


 探偵というよりも、現在進行形で犯人側の行いをしておいてよくそのようなことが言えるものです。

 技術の悪用ここに極まり。


「と、とにかく! 冷静になって、一度離れてください!」

「ふむ。理由を説明したらヤらせてくれるのかい?」

「するわけないでしょうバカなんです――うひゃぁあああっ!?」


 この人、お腹を舐めましたよ!? 背筋がぞわっとしました!


「ん、ちゅっ……ぱっ……誘花君も少しは楽しんだらどうだい? こんな美人と背徳的な行為に浸ろうというんだ、役得だろう?」

「だ、ダメですよ……! そう、いうっ……のはぁっ! 結婚する相手でないと、いけないんですからぁ……っ」

「古風だね。嫌いではないけど……ぺろ」


 動物が舐めるように、僕のカラダ中をシュルス先輩の舌が這い回ります。


「うぐっ、んはぁっ……っ……!?」


 力付くで振り払うことも、逃げ出すこともできない僕は、声を押し殺して耐えるしかありません。目をぎゅっと瞑って唇を噛んでいる間も、シュルス先輩の指や、舌や、唇が僕の奥底に眠る快楽を無理矢理引き出すように弄びます。


「ふふ、良い具合だね」

「はぁっ……はぁっ……っ」


 もはや抵抗する気力も失くし、荒い呼吸を繰り返します。

 体の力は抜け、シュルス先輩の指先で軽く撫でられただけで、びくりと体が反応してしまいます。


 そんな僕の反応が嬉しいのでしょうか。悦に浸るようにわらっています。

 そして、シュルス先輩は自身の制服に手を掛けると、ゆっくりとボタンを外していきました。

 真っ白な肌が露わになります。意外と豊かな谷間は汗で濡れており、彼女が昂っていることが伝わってきます。


 これからなにをするのか。のぼせた頭でも理解できてしまった僕は、いやいやと首を左右に振りました。


「やめ、ましょう、シュルス……先輩?」

「いけない子だね……誘花君? それは誘っているのと同義だぞ?」


 嫣然えんぜんと微笑むシュルス先輩が、僕の頬を優しく撫でます。

 そのまま伝うように顎をなぞると、首をゆったりと撫で、僕の服に触れました。丁寧に、焦らすようにシャツのボタンを外そうとすると、ピタリ、とシュルス先輩の指先が止まりました。

 残念そうにシュルス先輩が息を吐き出します。


「せっかく盛り上がってきたが、本命のご到着のようだ」

「シュルス先輩……?」

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