第3話 メモ紙のURLにアクセスしてしまいました。

 自宅に帰ってきた僕は、お風呂に入って、寝巻に着替えて、夕食を食べました。

 その間中、僕の心は上の空。もやもやと霧がかっているかのように重く、意識が散漫としていました。


 そんな心情が顔に出ていたのでしょうか。

 対面で食事を取っていたお義母かあさんが心配そうに尋ねてきました。


「なにか、不安なことでもありましたか?」


 神社の巫女さんをしているからか、お義母さんは時々鋭いです。人の心を察することに長けているのでしょうか。普段はおっとりとしていて、鋭さとはかけ離れた人なので不思議です。


「大丈夫です。少し考え事をしていました」

「そうですか?」


 どこか納得のいっていない様子でしたが、僕からこれ以上話すことはしませんでした。

 心配させたくなかったからです。

 手早く夕食の親子丼を食べると「ご馳走様でした」と手を合わせていそいそと退散します。


 足早に自室へと戻った僕は、机の上に置かれたメモ紙を手に取ります。

 いつの間にかブレザーのポケットに入っていた、あの大学ノートの切れ端です。

 魚の小骨のように心に刺さって抜けない棘の正体でした。


「悪戯だと思うんですけど……」


 そう、自分に言い聞かせても、心のつっかえは取れません。

 屋上で刺されそうになったばかりだからでしょうか。捨てるに捨てられず、どうしたものかと頭の隅っこでずっと考え続けてしまいます。


 結局、僕は不安に駆り立てられるように、メモに書かれたURLにアクセスしてしまいました。



 ■■


 Vtuberと書かれていたので予想はしていましたが、URLを入力すると有名動画サイトの個人チャンネルに飛びました。

 『病依やまいココロ.Ch』。メモ紙に書かれていた名前です。


「……ちょうど、配信をしているんですね」


 画面の目立つ場所に『生放送』と書かれたサムネイル。

 タイミングの良さにうすら寒さを感じつつも、おっかなびっくり再生画面を開きます。


『――皆様、ごきげんよう』


 ギョロギョロ。

 動画を再生した瞬間、蠢く赤いなにかが画面一杯に映されて、びくっと体が跳ねました。心臓が止まりなそうなぐらいの驚きです。危うくスマホを落としそうになりました。


『失礼致しました。少し、カメラに近付き過ぎてしまったようですわ』


 ぐいん、ぐいんと小さくなっていくにつれ、姿が明らかになっていきます。

 それは真っ黒なゴシックドレスを着た女の子でした。

 長い黒髪を二つにまとめている愛らしい少女。

 先ほど、画面一杯に映し出されていたのは、彼女の真っ赤な瞳だったようです。


 僕はほっと息を撫で下ろします。心霊現象でなくて安心しました。

 同時に、また黒髪なのかと、奇妙な偶然に心が震えます。もちろん、恐怖で。


 まるで生身の人間のように笑う女の子は、2Dという制限の中だというのに、優雅にお辞儀をしてみせました。


『改めまして、ごきげんよう。ヤンデレ系Vtuberの病依やまいココロです』

「……観るの止めましょうか」


 名前の時点で察しておりましたが、ピンポイントなキャラ設定に血の気が引きます。

 女の子にカッターナイフで刺されそうになったばかりです。画面の中のキャラクターと割り切るには、タイミングが悪すぎました。

 頬の切り傷が、思い出しように痛みを訴えます。



 動画を止めようと画面に手を伸ばした瞬間、


『視聴を止めてしまうなんて、つれないお人ですわねぇ』

 

 と、憂うような声で病依やまいさんが口にしました。再生停止ボタンに触れる直前だった指先が、金縛りにでもあったように止まります。







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【あとがき】

ガチ恋距離(<●>)

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【ななよめぐる小説】

『即オチ幼馴染は、勝負を挑みちょっとエッチな罰ゲームを受ける。』連載中

https://kakuyomu.jp/works/16816927859193622714/episodes/16816927859193656505

『惚れない約束を破ってしまった家庭教師、実は教え子に溺愛されています。』連載中

https://kakuyomu.jp/works/16816927862128285441/episodes/16816927862129048550

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【お礼&お願い】

最新話までお読みいただきありがとうございます。


面白かった! 続きが気になる!

名前が不穏。

ヤンデレといえばゴシックドレス!


と思って頂けましたら、

レビューの☆☆☆から、作品への応援お願いいたします。

面白かった★3つでも、もう少し頑張れ★1でも嬉しいです。


ぜひ、ブックマークも。


よろしくお願い致します。

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