第2話 女の子にぶつかったらポケットにメモ紙が入っていました。

「死ぬかと思いましたぁ……はぁ」


 どうにか刺されずに済んだ僕は、肩を落としてトボトボと街中を歩いていました。


 お夕飯でしょうか。楽しげに笑い合いながら、小さな子供と手を繋いだ家族がレストランに入っていきます。店内も明るく賑やか。なんて楽しそうなことでしょう。


 命からがら逃げだした僕とは、雰囲気の寒暖差が凄いです。

 頬の切り傷から血が垂れて、制服も心もボロボロ。危うく涙が零れそうな心境です。さぞや顔色の悪いことでしょう。


「……明日の登校が不安です」


 また、追いかけてくるでしょうか。諦めてくれるといいのですが。

 心配は尽きません。


 そんな風に俯いて周囲への注意が散漫だったのがいけなかったのでしょう。

 ドンッ、と誰かと肩がぶつかってしまいました。


「っ、申し訳ありませんっ!」


 咄嗟に謝罪しましたが、相手は何事もなかったように通り過ぎていきます。

 足早に去っていく後ろ姿は女性のものでした。確か、近くの女子高の制服だったはずです。長く綺麗な黒髪の女性……屋上の出来事を思い出してしまい身震いします。


「関係ない関係ない……はぁ」


 気分が落ち込んでいたところに、小石につまずいたような小さな不運。よくないとわかなっていても、大きなため息をついてしまいます。心の色は青一色です。


「早く帰りましょう」


 昼間は春らしい麗らかな陽気だったというのに、僕の気持ちが反映されたように空気が冷えています。気付けば空にも厚い雲がかかっていました。一雨振りそうな雰囲気です。


 吹く風の冷たさに思わずブレザーのポケットに手を入れます。外気に晒されていないだけでも、手は徐々に温もりを取り戻します。ほぉっ、と知らず心地良い息が零れました。

 とはいえ、そのまま歩き出すのは態度が悪い。手を抜こうとすると、かさりとなにかが手に触れました。


「……? なにも入れていた覚えはありませんが」


 首を傾げながらポケットから取り出します。

 出てきたのは小さな四角いメモ紙でした。どこにでもあるような、大学ノートの切れっぱしです。


「誰かの悪戯でしょうか?」


 ……女性関係でないことを祈ります。

 掲げた切れ端を良くみると、シャーペンで書いたのでしょうか。薄い文字でなにかが書かれていました。

 サイト名とURLです。


「Vtuber……病依やまいココロチャンネル?」


 なんでしょうか。名前からして嫌な予感しかしません。

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