第7話 探偵技術を駆使してからかうのは止めていただきたいです。

「……本人かと思いましたよ」

「ふふ、そうだろう? 君が来るだろうと準備していたんだ。なかなかの出来だろう?」


 得意気にべろんっと垂れた顔の皮――ではなく、変装マスクを掲げている探女さぐめシュルス先輩。

 正真正銘、探女さぐめ探偵事務所の部長です。

 これでも学校一の美少女として有名なのですが、中身はこの通り。自称探偵の変な人です。


 本物に見えるおどろおどろしいマスクに怯える僕を見て、シュルス先輩は嬉しそうに笑いました。


「いいね。その嫌そうな表情。ぞくぞくするよ」

「……人に言えないような趣味は隠していただかないと困ります」

「私に恥ずべきところはないからね。難しいお願いだ」


 この通り、性癖も拗らせています。

 失礼でしょうが、残念美人という言葉が頭に過りました。本当にこの人に相談していいのか悩みどころです。

 思わずため息が零れました。


「本日はご相談したいことが――」

「相談? 黒刃くろは君の件なら解決済みだよ」

「それもですが…………え?」


 僕が目を丸くすると、しっかりと頷いてみせます。

 解決って……。黒刃さんのことはお話していないのですが、どこで訊いたのでしょうか。


 驚く僕の反応を見てシュルス先輩は楽しそうです。

 書斎机の椅子に座ったまま手を伸ばして、僕の頬に貼られた絆創膏をつついてきました。


「ふふ……だが、少し遅かったようだ。相変わらず、誘花君はトラブルに好かれている。見ていて飽きないよ」

「好かれたいわけではありませんが……」


 できるなら愛想をつかしてほしいのですが、これがなかなか手強く。殺伐とした求愛に日々苦労させられています。


「ところで、どのような説得を……?」

「訊きたいのかい?」


 ニッコリと、意味深な笑顔が向けられます。目元が笑っていません。

 シュルス先輩の背後になにやら黒いモノを感じ取り、僕は頬を引き攣らせて首をぶんぶん横に振ります。


「止めておきます」

「そうか。賢明だね」


 シュルス先輩はあっさりと言葉を引っ込めました。


(一体、どんな説得をしたんですか……?)


 気になりますが、触らぬ神に祟りなし。自ら虎の穴に飛び込む愚行を犯す勇気はありません。


 僕の反応を見てなにかを察したらしいシュルス先輩が、琥珀色の瞳を細めます。


「ふむ。どうやら違う案件らしい」

「……その通りです」


 声を弾ませて笑うシュルス先輩に、僕は力なく頷きました。


「くくっ、こうも立て続けとは。尊敬に値する女難っぷりだね。羨ましい限りだ」


 にんまりと口角を上げたシュルス先輩は、新たな事件の予感に胸を躍らせているようです。

 そして、まるで迎え入れるように、シュルス先輩は両腕を広げました。


「さぁ、狂おしくも愛深き事件を、私に教えてくれるかな?」

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